ごめんあそばせ王子様、 離婚経験者の私に怖いものなどございません
ポツポツと言葉を選んで話してくれるジャンヌ様。
それだけでも、とても頭のいい優しい方だというのはよくわかった。
この年頃は、社交界に出る前にお茶会デビューをする。
小さなレディたちにとって、本格的な夜会に出る前の前哨戦だ。
会話、身だしなみ、作法、所作、幼い頃から学んできたすべてが試される。
ジャンヌ様にとって不利なのは、助けてくれるお母様を亡くしていることだろう。
そしてお父様のジョゼフ様が、お美しいうえに浮いた噂のひとつもない方だ。
伯爵夫人になりたくてジョゼフ様の再婚相手に立候補される方は大勢いると聞いているが、未だおひとりを貫かれている。
皆がジャンヌ様の気を引こうとチヤホヤするから、同世代からは嫌われてしまうのだ。
(ある意味、残酷だわ)
お父様の魅力の陰で、ジャンヌ様が虐められるなんてあってはならない。
「フランソワーズ様みたいにお綺麗な方にはわからないと思います」
ジャンヌ様は話しの最後にそう呟いた。
「とんでもない!」
私はありったけの思いを込めてジャンヌ様に向き合った。
「あなたの年頃には、私は色黒でガリガリで、すいぶん虐められたのよ」
主に、王太子のシャルル様にだけど。
「何色のドレスを着ても似合わないし、髪型もやぼったくってお茶会に行くのが辛かったわ~」
すべてシャルル様に言われたことだ。
「まさか!」
「そのまさかよ。でも大丈夫。あなただって、すぐに成長期に入って背が伸びてくるから」
「せいちょうき?」
またやってしまった。言葉には注意しなくちゃ。
「あなたの年頃は、み~んな自分に自信がないくせに、人より優位に立ちたいの」
「は、はあ」
「コイツ言い返してこないな~と思われたら、これでもかってくらい攻撃してくるよ」
心あたりがあるのか、ジャンヌ様はコクコクと頷いた。
「でもね、裏返せばみんな自分の容姿にコンプレックスを持っているのよ」
「こん?」
「え~と、強気に見えても、陰では人と比べて落ち込んでるってこと」
またコクコクとジャンヌ様は頷いた。
「ジャンヌ様は可愛いから嫉妬されてるのね。俯かないで堂々としていればいいのよ。本格的に社交界にデビューするまでは、みんな同じ立場なんだから」
「でも、私……今はお茶会に行きたくないです」
泣きそうな顔を見せるジャンヌ様は、どうやら心に傷を負ってしまったらしい。
これ以上は励ましてもかえってよくないだろと気が付いた。
「そうか……そうだよね。だったら、私と一緒に来ない?」
「は?」
「しばらく領地でのんびりするの。あなたもどうぞ!」
「でも」
いきなりの提案に、ジャンヌ様が戸惑ってしまっても仕方がない。
私だって急に思いついたんだもの。
ああ、少し離れてたところにいるルルまで慌てているわ。
「あなたのお父様には私がお願いするわ。お勉強やマナーだって、私が教えてあげる!」
王太子妃候補の教育を受けた私が指導するっていったら、ジョゼフ様だって認めてくださるはず。
「お散歩したり、お勉強したり、きっと楽しいわよ」
「私、行きたいです!」
今日初めてのいい笑顔をジャンヌ様が見せてくれた。
「決まりね」
こうして私は妹分をゲットしたのだった。