ごめんあそばせ王子様、 離婚経験者の私に怖いものなどございません
それからの日々は長かった。
侯爵家に遊びにいくたびにフランソワーズを王太子妃に相応しく育てねばと、煩く言い続けてきた。
着ているものや髪飾りだって気になるし、教養も身に着けてもらわなければならない。
あまりにも注意するものだから、私の顔を見ると委縮するようになってしまった。
(仕方ない、これもフランソワーズを王太子妃にするためだ)
そう思ってきたのに、いよいよ決める時になって宰相やら辺境伯が横槍を入れてきた。
どっちの狸も自分の娘はどうかと言い張るのだ。
苦肉の策として、五人の令嬢を集めて競い合わせることにした。
なにしろフランソワーズは優秀だから、きっと勝ち抜いてくれるはず……と信じている。
だが、ある時からフランソワーズの私を見る目が変わってしまった。
それまでは畏怖するような表情だったのに、平然と私を正面から見つめてくる。
(まあ、それはそれで好ましいが)
先日も、春を尊ぶソネットを作っいる最中に、子犬の絵を描いていた。
あれは、絵なんだろうか。
写実的な犬ではない。何て表現をすればいいのか迷うくらい斬新なものだった。
※作者注
フランソワーズの中にある橋本郁子の記憶では、漫画家志望だったから絵は得意となっています。
しかし、あくまで漫画ですから可愛い子犬のベルちゃんはデフォルメされたものです。
つまりシャルルにとっては、生まれて初めて見るイラスト画だったのです。
しかし、すぐにショックなことが起こってしまった。
フランソワーズが体調不良で王太子妃候補を辞退し、領地に戻るという知らせが入ったのだ。
私は直ぐにルイを呼び出した。
「どういうことだ? ルイ!」
「殿下、フランソワーズの意思は固いみたいですよ」
「なんだって! 今になってなんで……」
「だって、殿下の気持ちは小指の先ほども伝わっていないじゃないですか」
「そ、それは」
「小さい頃からイジメ過ぎましたね」
ふたりだけだから、ルイも歯に衣着せぬ言い方だ。
「文句ばっかり言うし、いじめるし……」
「仕方ないじゃないか、フランソワーズには王太子妃に相応しい教養を身に付けてもらわなくてはならなかったんだ!」
「でも、その結果がこれですよ。私だって庇いようがない」
「ルイ……」
「ただ、いい情報が手に入りました」
「いい情報?」
「フランソワーズの、理想の相手とプロポーズ」
「な、なんだそれ!」
この時くらい、ルイを側近候補に入れておいてよかったと思った時はない。