ごめんあそばせ王子様、 離婚経験者の私に怖いものなどございません
大切な書類にうっかりミスをしては大変だから、何年も領地の管理を担当している書記官のポールと念のためアランにも同席してもらうことにした。
だけど、私がミスをする以前の問題だった。
(お父様が、残念な人だってこと忘れてたわ)
お父様はほどほどには優秀な方だけど、いわゆる『お片付けの出来ない人』だった。
どこにどんな書類があるのかお父様は理解しているけど、ほかの人にはわからない。
仕方なくポールだって自分の守備範囲だけ死守している状況だ。
これでは効率が悪いし、これからの領地経営のビジョンが立てにくい。
「まず、整理整頓。それから農作物の分類作業と収穫量のデータ化ね」
後半部分はポールやアランに伝わらなかったかもしれないけど、久しぶりに役所勤務の血が燃えたわ。
ただ、この作業は地味でめんどくさい。
長時間は集中力が続かないし、私のスローライフにも影響が出てしまう。
そこで、ダラダラ遊んでいたけれど日課表を作ることにした。
起床時間を決めて、午前中はお勉強。お昼ご飯は天気のいい日はお庭で食べるかサンドイッチを持ってピクニックに出かける。
午後はジャンヌ様にはピアノとか刺繍とかの練習をしていただいて、私は書類の整理と資料作り。
チョッとスローライフからは外れてしまったけれど、無駄に王宮に通っていた時間を思えば理想的な生活だ。
それにここでの生活があっていたのかジャンヌ様の表情は明るくなるし、自分の考えをキチンと口に出してくださるようになった。
「フランソワーズ様、まるで本当のお姉さまみたい」
「わあ、嬉しい。私も妹が欲しかったの」
「じゃあ、お姉さまってお呼びしてもいいですか?」
「もちろん! 私もジャンヌって呼んでもいいかしら」
「はい!」
ジャンヌ様はすっかり私に懐いてくれたみたいで、お揃いのドレスを作ろうかと相談中だ。
ルルや領地の屋敷にいる使用人たちはニコニコと見守ってくれているし、護衛騎士とはいえ計算が得意なアランも役に立ってくれている。
ほんの数カ月前まで、私にこんな平和な日々がやってくるなんて思ってもいなかった。
王宮に通って、勉強と社交だけの無味乾燥な毎日。家のためにと、シャルル様の顔色を伺うのにも疲れてしまった。
(今ごろアンヌマリー様やリリアーネ様はどうなさっているかしら)
私は抜けちゃったし、マルグリッド様やカトリーナ様では二十二歳のシャルル様の王太子妃になるには幼すぎる気がする。
(辺境伯令嬢VS宰相令嬢か)
どちらのご実家にも力や財力があるし、家柄もいい。
ご本人たちも美しくて教養のある方だから、シャルル様が好きな方を選べばいいだけだ。
スラリとした怜悧な美女のマルグリット様か、豊満で愛嬌のあるカトリーナ様のどちらがお好みなのかしら。
幼い頃から知っているけど、シャルル様の好みはわからない。
(すべて丸く収まるといいわね)
そして、私は……。