ごめんあそばせ王子様、 離婚経験者の私に怖いものなどございません
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どうやらお父様は悩んでいらっしゃったようだ。
私は深く考えていなかったけど、王太子妃候補を自主的に断ってしまえば、私に何らかの欠点があると世間に公表してしまうことになる。
侯爵令嬢として広く知られていたから、余計に心無い噂がたったようだ。
身体に問題があるとか、ほかの男と通じたとか、それはもう好き勝手に噂されたらしい。
ジョゼフ様だって知っていただろうに、ひと言もおっしゃらなかった。
「あなた自身を知っている私にとって、噂くらいあてにならないものはないですよ」
ジョゼフ様の方が、二度目の結婚になることや子どもがいることを気にしてくださる。
「悪評なんて、この幸せの前には障害にすらならない」
「嬉しい! 私、あなたを愛しています」
「フランソワーズ、私も君を愛している!」
私が気持ちをそのまま伝えたら、ジョゼフ様は私を抱きしめてキスしてくださった。
(キャッ!)
郁子は一応経験者だけど、フランソワーズはもちろんなにもかもが初めてになる。
(それに、あんな素敵な方と……)
郁子としてだって、ジョゼフ様と結婚して、あんなことやこんなことするかと思うとパニックになりそうなくらいだ。
ジョゼフ様と私の婚約はひっそりと交わされた。
なにしろ王太子妃候補を辞退して引きこもっているうちに愛が芽生えてしまったのだから、ほとぼりが冷めるのを待つ方が賢明だとの判断だ。
私も領地でのスローライフは十分堪能したから、もう少ししてから社交界に戻るつもりだ。
今度は、コルニーユ伯爵夫人として。
私とジャンヌは、まだシャルタン家の領地にいる。
ここでジャンヌの社交界デビューのためにお勉強したりダンスのレッスンをしているのだ。
私がついているから、華々しくデビューさせてみせるわ。
そして未来の旦那様は、必ず週末に訪れてくださる。
お菓子やアクセサリーといった妻と娘へのプレゼントを持って。
(郁子の記憶があってよかった)
今の幸せをつかむことができたのは、おばちゃんの人生を精一杯生きた結果かもしれない。
(今度こそ、幸せになろう!)
家族をいっぱい愛して、いっぱい人生を楽しもうと、私は決意を新たにした。