ごめんあそばせ王子様、 離婚経験者の私に怖いものなどございません
「フランも変な奴に……」
「え? なにかおっしゃいました?」
「い、いや、なんでもないよ。でもフラン、これから君はどうしたいんだ?」
兄は心配そうに私の顔を覗き込んでくる。
「とにかく私、あのお勉強会からは抜けたいんです」
「うん」
「もうシャルル様の婚約者は宰相家のご令嬢だと決まっているのに、あんなに時間をかけてズルズルと引き延ばされている理由がわかりませんし」
「は?」
「あのお妃教育を受けたあと、いい結婚相手を紹介してくださるっていうのも眉唾ですし」
「はあ?」
「私はひと足早くご遠慮させていただいて、領地に行ってスロー、いえ、疲れを癒したいと思っております」
「フラン……」
ここぞとばかりに思いのたけを兄に話すと、なぜか大きなため息をつかれてしまった。
「妹よ。これまで君に聞いたことがなかったけど、どんな相手なら結婚してもいいと思ってるんだい?」
この国の貴族は、日本より結婚年齢が少し若い。
十六歳から十九歳くらいで婚約者が決まり、二十歳すぎてから結婚するのが普通とされている。
だから私は適齢期真っただ中。その貴重な二年間を、王太子妃候補の教育に費やしてしまったのだ。
兄から真面目に尋ねられても、まさか結婚したくないなんて言えないし、私は困ってしまった。
「そうですね。お優しくて思いやりがあって……」
仕方なく私は(郁子は)、娘が言っていた理想の結婚相手の条件を列挙することにした。
「同じ価値観を共有できて、安定したお仕事をお持ちの方でしょうか」
兄はキョトンとした顔をした。
「安定した仕事とは? 貴族より商人の方がいいってこと?」
「あ、いいえ、そういうわけでは」
なんとか誤魔化して微笑んだ。
「じゃあ、結婚を申し込まれるとしたら、どんなふうにされたい?」
兄は今日に限って、あれこれしつこく聞いてくる。
「え? 考えたことないんですけど」
「今、今すぐ考えてみて」
「え~と……」
私はまたしても娘から聞いたこととか、雑誌で見た理想のシチュエーションとかを思い描く。
なにしろ郁子は味気ない見合い結婚だったし、離婚経験者の私には甘いイメージなんて湧いてこないのだ。
「ふたりの思い出の場所とか、夜景の綺麗なところとか……」
「夜景?」
ああ、また墓穴を掘った。王都の夜景なんて真っ暗じゃないか。
「あの、お星さまを見ながらとか……」
「ああ、夜会の時にバルコニーでってこと」
「は、はい」
「それで?」
「……綺麗な花束を渡してくださって、ティなんとかとか、ハリーなんとかの指輪を準備してくださったら最高ですね」
「そのティなんとかって?」
「人気のブランド、いえ、宝飾店みたいですわ。ね、ルル」
私がルルに助けを求めたら、彼女の顔も固まっていた。