ごめんあそばせ王子様、 離婚経験者の私に怖いものなどございません


「でもな~。今さらこんなことになちゃっても」

ルルの助けより早く、兄が意味不明なことを言い始めた。

「なにがでしょうか?」

「フラン、なんとか王宮に通ってくれない? 私の身の安全のために」
「え?」

なんだか物騒な話になってきた。

「身の安全? お兄様、誰かに狙われていらっしゃるの⁉」
「いやいや、そういう物理攻撃じゃなくてね」

ますますわからない。

「お兄様、私の気持ちは変わりません。明日、お父様にもきっちりお話いたします」

「ああ~」

がくりと項垂れて、お兄様は部屋を出ていった。

「ルル、お兄様どうなさったのかしら?」

「わかりません。お嬢様を王太子妃にしたいと思っていらっしゃったんでしょうか?」
「まさか! お兄様は私がシャルル様が苦手だって知っているもの!」

「そうですよね~。旦那様もルイ様も。お嬢様のことお嫁に出したくないっておっしゃっていますものね」

そうなのだ。私が好きな相手ならともかく、嫌いな相手との結婚を無理強いするような父や兄ではないのはありがたい。
貴族なら政略結婚だって仕方がないというのに、私はその点だけはとっても恵まれている。

(それに甘えて、領地に引きこもろうっていうのは申し訳ないけど)

不良債権なりに、コスパのいい暮らしを考えなくてはいけない。

(なにか領地のためになる仕事をして、お父様たちの役に立たなくちゃ)

私にあるのは、王太子妃候補として学んだ知識と長年役所勤めをしてきた郁子のスキル。
ま、事務の仕事といってもほとんどパソコンで仕事してたから、ここでは役に立たないかもしれないけど。

(予算編成? 福利厚生? 私が技術職なら土木工事とか詳しかっただろうけど)

あとは窓口業務で鍛えられた、どんな無理難題を押し付けてくる相手とも話せるコミュニケーション能力くらいしか活かせるものはない。

「ねえ、ルル」

「はい、お嬢様」

「ルルが着ているような、動きやすそうなドレスって私にもあるかしら?」

「はい?」

「領地ではヒラヒラしたドレスはいらないもの」
「はあ」
「乗馬服はいるわね。それから……」

「あの、お嬢様。領地に行かれるのは決定事項なんですか? もう王宮には行かないって決めてしまわれたのでしょうか」

「ええ。未練はないし、領地で暮らす方が私にはあってると思う」

ルルもウンウンと頷いている。

「私も、付いていってよろしいですか?」
「あなたも来てくれるの? ルル」

「私がお仕えするのはお嬢様おひとりです!」

「ありがとう、嬉しいわ」








< 8 / 21 >

この作品をシェア

pagetop