悪役を買って出た令嬢の、賑やかで切なくて運命的な長い夜のお話
王都の中で、エバが知っている場所は少ない。
 宝石商や家庭教師は定期的に屋敷へ来る。王都を歩くのはドレスを仕立てに店に行く時くらいだ。
 不思議な夜だ。
 ひょんな事から、これからアンドレアの知人の結婚式へお祝いに同行する事になった。
 何度断っても、アンドレアはトランクを自分が持つといってきかない。
 最後は端正な顔を近づけてきて「どうしても駄目ですか?」なんて迫るから、急に恥ずかしくなってしまった。
 結局トランクはアンドレアが持ってくれる事になり、エバは申し訳ないと思いつつそれに甘えた。
 アンドレア様には悪いけれど、結婚式の賑わいに紛れてそっと逃げ出そう。トランクをどこに置くかちゃんと見ていなくては。
 『乗り合い馬車は、朝にならないと出ないですから』
 あの言葉には心臓が飛び出しそうになるほど驚いた。
 何かを知ってる? 手紙は王子宛てだから絶対に読まれてはいないだろうし、まさか昼間のお別れの挨拶だけで察したとか?
 本人に聞く訳にはいかず、エバは頭の中でありとあらゆる可能性を考えた。
 しかし、納得いく答えはさっぱり出なかった。
(とにかく。朝になる前にアンドレア様と別れて、もっと先の乗り合い馬車の停留所まで行こう)
 心配したアンドレアが追いかけてくる可能性を考えて、そうする事に決めた。
 
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