悪役を買って出た令嬢の、賑やかで切なくて運命的な長い夜のお話
「そうだろうね、魔法なんかはもうすっかり御伽噺の世界の話だ。だけど……完全に消えた訳では無いんだよ」
 ゆっくりとした語り口に、エバはこれは真実の話なのだと確信し始めた。
 実際に、エバはここに来るまでに夜道にてんてんと咲く光る道標の花を見た。
 この花屋に並ぶ見たことも聞いたこともない、不思議な花たちだ。
 子供の頃から本が好きで、城の図書館に特別に通わせて貰っていた。
 何冊もの図鑑を飽きるほど眺めたが、一度もこんな個性的な花は見たことがない。
 そうして、アンドレアが紹介してくれたヒガンと名乗るエルフ族。
 エバは恐怖よりも、不思議な気持ちを感じていた。
 瞼の裏で炭酸の泡が弾けるように、物珍しいものが視界に飛び込んでくるたびに目の覚めるような新鮮な感覚。
 しかし同時に、薄いうすいベールが掛けられていくようなぼんやりとした瞬間もある。
 知らない物を見た驚きが、ベールのおかげてマイルドに受け止められている。
 夢の入口。ベッドの中で目を閉じて、夢とうつつを行ったりきたりしている時間に似ている。
 アンドレア様に助けて貰ったあとから、時間がいつもよりもずっとゆっくり流れている。
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