悪役を買って出た令嬢の、賑やかで切なくて運命的な長い夜のお話
それからもう、花屋の中でエバはアンドレアの顔を見れなくなってしまった。
 何を言われても、聞かれても、まるで湯浴みのお湯の中に頭を突っ込んでいるみたいに赤くのぼせた顔が戻らない。
「ヒガン、今日の祝いの花を見繕ってくれないか?」
 アンドレアがヒガンに言うと、ヒガンはちらりとエバを見た。
「せっかくだから、お嬢さんと相談しながら決めてもいい?」
 突然のヒガンからの提案に、エバは「私ですか?」と聞き返した。
「そうだよ、エバお嬢さん。【豊穣の目】を持つお嬢さんなら、今日の良き夜に一番ふさわしい花を選んでくれるだろう?」
 ヒガンが、エバの翠色の目を覗き込む。
 エルフ族のヒガンの目は、静寂に包まれた深い湖の底の重い青黒色だった。
 その目が静かに語りかけてくる、「どの花を選ぶ?」と。
(ホウジョウ……?)
 ヒガンの様子だと、どうやらエバの目の事をさしているようだ。
 ホウジョウ。そのまま受け止めたイメージなら、豊穣、穀物が豊かに実るという意味だ。
「……ヒガンさん」
「なんだい?」
「あの、その【ホウジョウノメ】とは、何ですか? もし私の目のことを言っているなら、この不思議な色に何か意味があるのですか?」
 エバは疑問を、そのままヒガンにぶつけてみた。
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