悪役を買って出た令嬢の、賑やかで切なくて運命的な長い夜のお話
イーベルアル国で幼い頃に人攫いに斬りつけられ、三日三晩高熱に魘されたあと。
目覚めたエバの瞳の色は、この珍しい翠色に変わっていた。
カナン帝国の医者にも原因がわからず、視力に問題が無ければとそのままになった。
美しくエバが成長するにつれて、宝石に似た瞳は『カナンの至宝』と呼ばれるようになっていた。
しかし父の普段の悪い態度や印象から、娘も悪女に違いない、お高くとまっている、あの瞳の色はまがい物だと陰口を叩かれる事も多い。
いまではすっかり陰口には慣れたが、瞳の色の理由は全くわからないままだ。
アンドレアから賢者、と呼ばれたヒガンなら、エバの疑問に答えてくれるものだと思った。
あれ? という表情をヒガンはアンドレアに向けたが、アンドレアは小さく首を振った。
やれやれとヒガンは肩をすくめ、再び視線をエバに向けた。
「エバお嬢さん、貴女の瞳のことはアンドレア様から教えて下さるそうですよ」
「えっ、アンドレア様、何か知ってるんですかっ」
エバはさっきまでアンドレアの顔を見られなかったのに、そんなことをすっかり忘れてていた。
「この瞳の色のこと、どうして今まで黙って……あっ」
アンドレアの赤い瞳に自分が写るのを見て、やっとさっきまで視線を合わさないようにしていたことを思い出した。
「知っています。夜が明ける頃、エバ様にお伝えします」
「今じゃ、だめなんですか?」
知りたい気持ちが、つい先行してしまう。
「はい。でもきちんと、夜が明ける前には伝えます」
だから、今はまだ待って欲しい。
いつにないアンドレアの念を押す真摯な目に、エバはそれ以上はもう何も言えなくなってしまった。
目覚めたエバの瞳の色は、この珍しい翠色に変わっていた。
カナン帝国の医者にも原因がわからず、視力に問題が無ければとそのままになった。
美しくエバが成長するにつれて、宝石に似た瞳は『カナンの至宝』と呼ばれるようになっていた。
しかし父の普段の悪い態度や印象から、娘も悪女に違いない、お高くとまっている、あの瞳の色はまがい物だと陰口を叩かれる事も多い。
いまではすっかり陰口には慣れたが、瞳の色の理由は全くわからないままだ。
アンドレアから賢者、と呼ばれたヒガンなら、エバの疑問に答えてくれるものだと思った。
あれ? という表情をヒガンはアンドレアに向けたが、アンドレアは小さく首を振った。
やれやれとヒガンは肩をすくめ、再び視線をエバに向けた。
「エバお嬢さん、貴女の瞳のことはアンドレア様から教えて下さるそうですよ」
「えっ、アンドレア様、何か知ってるんですかっ」
エバはさっきまでアンドレアの顔を見られなかったのに、そんなことをすっかり忘れてていた。
「この瞳の色のこと、どうして今まで黙って……あっ」
アンドレアの赤い瞳に自分が写るのを見て、やっとさっきまで視線を合わさないようにしていたことを思い出した。
「知っています。夜が明ける頃、エバ様にお伝えします」
「今じゃ、だめなんですか?」
知りたい気持ちが、つい先行してしまう。
「はい。でもきちんと、夜が明ける前には伝えます」
だから、今はまだ待って欲しい。
いつにないアンドレアの念を押す真摯な目に、エバはそれ以上はもう何も言えなくなってしまった。