悪役を買って出た令嬢の、賑やかで切なくて運命的な長い夜のお話
「アンドレア様、今夜結婚式を挙げるお二人はどんな方なんですか? もし差し支えなければ、お花を選ぶ参考にしたいのです」
 気持ちを切り替えたエバは、そうアンドレアに聞いてみた。
 プレゼントやお祝いなら、想像でもその人のことをイメージして喜びそうな物を送りたい。
「二人は今夜が初めての対面になります」
「今夜が初めて、ですか」
 政略結婚でも、たまにそういった場合もあると聞く。
「二人は結婚式でダンスを踊り一夜を明かしたら……別れます」
「え……、それはどういう……」
 動揺するエバに、ヒガンが補足を始めた。
「彼等はそういう種族なんだ。一夜だけの結婚を経て、旦那は明け方には死ぬ。奥さんの方は、翌日には地下の領地に戻ってそのうち子供を産むんだ」
 種族、と聞いて、人間の話ではないのだと理解はしたのだけど。
「あの、旦那さまになる方は、本当に明け方には死んでしまうのですか?」
 聞き間違えであって欲しい。
 そう願ったが、ヒガンは「うん」と答えた。
「地下の領地に戻り子供を産み続け、二十年程で夫の待つ世界へ静かに旅立ちます」
 こう答えたのはアンドレアだ。
「でもエバお嬢さん。これが彼等の生き方、運命、当たり前のことなんだ。エルフ族から見たら人間の寿命なんて短いけど、わたしはお嬢さんを可哀想だなんて思ったりはしないよ」
 お別れは寂しいと思うけどね、とヒガンが優しく言いウィンクした。
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