悪役を買って出た令嬢の、賑やかで切なくて運命的な長い夜のお話
エバが花屋で新郎新婦の為に選んだ花は、かすみ草だった。
 色とりどりの花が放つ色彩の海の中で、その白いかすみ草の可憐さがひと際目を引いた。
 ひとつの茎にたくさんの可愛らしい白い花をぽんぽんしゅわしゅわと咲かせている。
 その様子が、これから生まれてくるであろう彼等の愛おしい子供を連想させた。
 ヒガンが美しい花束にしてくれるのを、エバはアンドレアと眺めている。
 店の奥には作業テーブルがあり、壁際には花束を包む透けた紙やリボンが並べられていた。
 薄いピンク、それから純白の紙をたっぷり重ね、束にしバランスを整えたかすみ草を包む。
 細やかな金糸で刺繍された白いリボンをかけると、この世でひとつしかない今夜の花束の贈り物が出来た。
「いいですね、白いかすみ草。花言葉は『幸福』『感謝』です」
「幸福、感謝……素敵ですね」
 ほうっと、エバは安堵の息を吐いた。
「俺からもお礼を言わせて下さい。二人のためにあの花を選んでくれて、ありがとうございます」
 アンドレアに頭を下げられたが、エバは自分もお礼が言いたかった。
「私も、ありがとうございます。こんな大切な日の贈り物を任せて貰えて、嬉しかったです」
 高揚した気持ちで微笑むと、アンドレアがぼうっと顔を赤くするのがわかった。
 つられてエバもまた顔を赤くし、二人してもじもじとしている。
「 楽しそうにしてるところ、邪魔してごめんね。はい、エバお嬢さんにはこれをプレゼントさせてね」
 ヒガンの大きな手のひらに、青い薔薇の生花とリボンで作られた髪飾りが乗っている。
「プレゼント……こんなに素敵な髪飾り、私が頂いても良いのですか?」
 生き生きとした大きな青薔薇が茎を短く落とされ、繊細な柄違いのレースとパールが付けられたのリボンで装飾されている。
 髪に留めるための細工も施してあり、ふわりと心をくすぐる甘い香りもする。
 
 
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