完璧からはほど遠い
「あ、カレーですか?」

「うそ、俺こんな時にカレーが大好きだって叫ぶように見える?」

「まあ、プライベートの成瀬さんなら何をしだすか分からないといいますか……」

「ちゃんと聞いてほしいな、俺一世一代の告白したんだけど」

 困ったように笑った成瀬さんを見て、私はようやく状況を理解した。だが、それも喜ぶまで至らない。なぜそんなことになっているのか信じられない気持ちでいっぱいだったからだ。

 だっておかしい。あの成瀬さんが? 高橋さんは?

 ぽかんとしたままの私に、彼は無理やり笑顔を作ったように笑い、続けた。

「困らせるって分かってた、でも言わないと駄目だよなって自分で思ってさ。逃げちゃよくないよね。
 でも、分かってるから。俺も大人だし、ちゃんと祝福するよ。
 結婚、おめでとう」


「は??」


 今年一番の「は?」が出た。多分、告白された嬉しさを飛び越えて嫌悪感の方が勝ってしまった。それぐらい、成瀬さんの口から聞きたくない言葉だったのだ。自分でもびっくりするほど低い声だ。

 私の反応に、相手もはて、という様子で首を傾げた。二人ともお互いの様子を伺うような沈黙が流れる。

 私は耐えきれずに尋ねた。

「結婚って、誰がですか」

「佐伯さん」

「誰とですか」

「元カレの」

「するわけないでしょう!?」

 ひっくり返った声が出た。まさか大和が流したデマ、成瀬さんの耳にまで届いていたなんて。冗談じゃない、私は結婚どころかもう顔も見たくないというのに。
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