完璧からはほど遠い
未だテーブルは届いていなかったので、広々としたリビングにはソファだけが寂しく置かれていた。私はとりあえずそこに腰かけてみる。成瀬さんもやや距離を取ったまま隣に座り、私たちはお互い俯いた。
だがすぐに、成瀬さんが私の方を見て尋ねた。
「えっと、本当に結婚しないの?」
「しません! 一体誰から聞いたんですか?」
「高橋さんだけど」
出た! 私は心の中でついに彼女を殴った。妄想だけなら許されるよね、殴り飛ばして五メートルくらい飛ばしてやったぞ。
いやそもそも、高橋さんの話だけを鵜呑みにした成瀬さんも悪い気がする。
「それは誤った噂です! どうして信じたんですか、私は一緒にイタリアン行った時、もう戻ることは絶対にないって断言しましたよね」
「高橋さんの話だけだったら俺も信じてなかったよ。
ただ、見ちゃったから」
「え?」
「……先週出かけた帰り、カレーを貰うの忘れたことを思い出して引き返した。そしたら、佐伯さんと……」
そこまで言われて気が付いた。はっとして手で口を覆う。
もしかしてあの玄関先で大和にキスされた件だろうか?
思えば、あの時何か視線を感じた気がしたのだ、だからドアを開けて最後もう一度確認してみた。でも辺りには誰も見えなかったので気のせいかと思っていたのだが、まさか成瀬さんに見られていたなんて!
彼は言いにくそうに言う。
「その時、佐伯さん別に嫌がるそぶりとかもなかったし」
「ああああれは! 復縁を迫られて、なぜかプロポーズまでしてきた大和が最後不意打ちでしてきたものです! 私が何もしなったのは、大和に思い知らせたかったんです、お前のキスなんか泣く価値も怒る価値もない、それぐらいもう眼中にはないんだって! だから私、キスされた後言い放ったんですよ、これで満足したか? って!」
早口で説明する。そうか、傍から見れば、家から出てきた挙句キスされて何も拒絶しない、つまりは受け入れていると思われるのか。だから成瀬さんは私と大和がヨリを戻したのだと思ってしまったのだ。高橋さんから聞いた情報も信じてしまったに違いない。