完璧からはほど遠い
「…………」
「思えば不思議ではあったんだよ。佐伯さんの作る物だけに対しては最初から全然抵抗がなかった。前も言ったように、関わったことはなくても君の働く姿を見ていたから信頼していた。でもそれは思っていたよりずっと特別なものだったのかも。
いつも丁寧に仕事をして、ミスをしたときは泣きそうになりながらも必死に前を向いて頭を下げていた。プライベートでは優しくて世話焼きで、俺の本性も仕事中の姿も区別せずに接してくれる」
「成瀬、さん」
「佐伯さんじゃなかったら外出もあんなに楽しくないし、そもそも鍵だって渡してない。全部は佐伯さんだから。君は特別なんだよ。
でも俺こんなんだし……だらしなくていつも佐伯さんに叱られてるしさ。異性として見られてないのは自覚してたんだよ。平気で部屋に呼ぶしさ」
やや拗ねたように口を尖らせた彼を見て、私は慌てて反論した。
「それはこっちのセリフです! テーブルは私の部屋を見て決めるって言ったの成瀬さんですし!」
「俺家に行くなんて一言も言ってないよ。写真とか撮ってきてもらって見せてもらおうと思ってただけ」
確かに、と得してしまった。思えば彼は一度も直接私の部屋を見る、なんて言ってはいない。私が勝手に早とちりして呼んでしまっただけなのか。
いや、私が彼を家に呼んだ理由はそれだけじゃない。もっと一番大きな、そして大切な理由があったんだ。
膝の上に置いた手をぎゅっと握って拳を作った。
「……いえ、違います。テーブルを選んでもらう、なんて口実です。成瀬さんと出かけたのが楽しくて、あのまま解散したくなかっただけなんです」
蚊の鳴くような声だけれど必死に伝えた。瞬時に、成瀬さんの目が真ん丸に開かれる。