完璧からはほど遠い
 恥ずかしさで爆発しそうだったが、正直に伝えた。だってあんまりだ、せめてもう少し恋人っぽいことがないものか。これじゃあ本当に宿泊しにきただけになってしまう。

 いやそれともあれか? あの成瀬さんだから、一般的なイチャイチャは期待できないのだろうか!? それよりも寝ていたいです、とか? 睡眠第一なのか。頭がぐるぐると混乱する。

 私の返答を聞いて、次に言葉を詰まらせたのは成瀬さんの方だった。彼は持っていたパソコンをそっと隣に置き、私に向き直る。そして一度咳ばらいをすると、やや困ったように言った。

「もしかして何か勘違いしてる? なんていうか、俺はちょっと色々考えておきたいことがあるのと、今日はとりあえずゆっくりしようかなって」

「は、はあ」

「俺まだ風呂も入ってないからさ。やること終わったら風呂入って寝るよ」

「成瀬さんも寝室に来ますか?」

「い、いや、それはちょっと」

 何で困った顔してるんだろう。付き合ってるのに彼はソファで寝るつもりらしい。私は口を尖らせる。

「また風邪ひきますよ……私が急に来たのが悪いんですから、私がこっちに」

「いやいや女の子でしょ。それに寝室はシングルで二人じゃ狭いから。
 ……っていうのは言い訳で!」

 痺れを切らしたように成瀬さんが頭を掻いた。そして眉を下げる。

「佐伯さんが隣にいたら、俺ちゃんと寝られる自信ないよ。同じ部屋にいるだけで襲いそうになったって言ったでしょ」

「襲っちゃダメなんですか?」

「……惑わしてくれるね」

 そう言った成瀬さんは少し声を小さくさせた。そして諦めた、とばかりに小さく息を吐き、苦笑しながらいう。

「俺言ったことあるでしょ。ずっと女っ気なかったわけ」

「はい」

「まさかここにきて彼女が出来るなんて思ってなかったわけ」

「はい」

「ないんだよ、大事な道具が」

 そこまで言われた瞬間、私はやっと彼が何を言いたのか悟った。同時に、顔を真っ赤に染め上げる。沸騰しそうなぐらい、顔が熱くなった。
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