完璧からはほど遠い
「いえ、全然大丈夫です。急に上がり込んだのは私なので」

「お昼とかどうした?」

「家にあったもの食べました」

「出かけたついでに夕飯は買って来たよ」

「成瀬さんがですか!?」

「はは。俺一人ならこんなことしないけど、佐伯さんも食べるんだって思ったら全然苦じゃなかったよ」

 袋を覗き込んでみると、確かにお弁当や飲み物なども入っている。なんだか感激してしまった、まるではじめてのおつかいを観覧したときのようだ。成瀬さんが自分でご飯を買って帰ってくるなんて。じーんと胸が熱くなる。それを気づかれたのか、彼は目を座らせていった。

「ちょっと、そんな感動するとこ?」

「成瀬さんがご飯を買って帰るなんて」

「いや俺子供かよ」

「食生活は子供以下でしたね」

「……」

 二人で顔を見合わせ、笑う。成瀬さんはコートを脱ぎながら言った。

「それにしても、帰ってきた瞬間はこうぐっとくるもんがあったよね」

「え?」

「おかえりなさい、なんて今まで言われなかったじゃん? いいよね」

「あ、それは私も思いました」

「一人暮らしはこうはいかないからね。
 あ、そうだ薬局でリンスも買ってきた」

「わあ、ありがとうございます! 覚えててくれたんですね」

 朝起きて痛感する髪の痛みっぷり。私は本当にありがたくて手を合わせる。彼は一度ふうと大きく息を吐きだすと、すがすがしい表情で言った。

「多分、準備は整ったよ」

「え、なんのですか?」

「完璧とはいえないけど、佐伯さんの元カレの対処」

「そのために今日出かけてたんですか!? でもどこに?」
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