完璧からはほど遠い
 まさか私のためだったなんて。しかし一体何をしていたというのだろう、警察に相談とか? いや、それならば本人である私が行かないと駄目だろうしなあ。

 成瀬さんはにこりと笑って見せる。

「まあ、ゆっくりそれは話すね。ただ一個、佐伯さんに覚悟してもらいたいことがある」

「覚悟? なんでしょう」

「俺と付き合ってるってこと、みんなにばれてもいい?」

「え!」

 聞かれて思い出した問題。そうだ、あの成瀬さんと付き合うだなんて、私は色んな人から好奇の目で見られるし嫉妬もされるだろう。以前はそれを恐れ、ご飯を届ける関係すらバレたくないと思ったものだ。

「佐伯さん、ずっと気にしてたでしょ。でも隠し続けるのは無理があると思うんだ、それに隠してたら守れるものも守れない」

「……」

「あと、俺が自慢したいのもある」

「自慢って! 逆ですよ逆! 自分の立場分かってるんですか!?」

「ええ? 何で。こんな最高の人が付き合ってくれてるんだよ、自慢しちゃうよ」

 肩をすくめてそう言う彼に、普通の感覚がずれているなあと再確認しながら、私は答えた。

「自慢は置いておいて……。
 大丈夫です。付き合ってるってバレても。前はそれを恐れてましたけど、今はそれより幸せなことがいっぱいだし、心強いんです。だから、全然気にしません」

「よかった。これで色々守れるかな」

「……ありがとうございます、すみません、その私のために」

「どうして佐伯さんが謝るの? 全然悪くないじゃん。それに謝るのはこっちだよ、もっと早く話を聞いていれば一人で悩まずに済んだのに。
 お詫びに精いっぱい頑張る、頼ってね」

 優しくそう言った声色は、うっとりしてしまうほど温かで聞き心地がよかった。彼を見上げながら、私は嬉しくてただ微笑み返した。
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