完璧からはほど遠い
ふと目を開けると、電気が消えた暗闇が見えた。ぼんやりとしつつ、頬に柔らかな枕が当たっている感覚を覚える。うつぶせの状態だったのだ。
いつのまにか寝ちゃってたのか。
そう気づき頭を上げようとしたところで、視界に揺れる液体が見えた。水の入ったペットボトルを差し出していたのは、誰でもない成瀬さんだった。彼はベッドの上に腰かけ、微笑みながら私を見下ろしていた。
「あ……ありがとうございます」
そうお礼を言って腕を伸ばした時、自分の肌色の肩が見えて、慌てて布団を引きあげた。そんな私をなぜか笑いながら見、彼はもう一本の水を自分も飲みだした。心地よさを覚えるほど勢いよく水を流し込む横顔を眺めながら、私も受け取ってこそこそと飲む。CMに出て来そうなぐらいの飲みっぷりと綺麗な横顔を、なんとなく恨めしい気持ちで見つめた。
「なに? じっと見て」
ペットボトルを床に置いて成瀬さんが尋ねる。サイドテーブルなんてものがない部屋なので、私も倣って床に水を置いた。布団に肩までしっかり入りつつ、答える。
「成瀬さんって、普段はソファから一歩も動けない人間のくせに、体力あるんですね?」
「はは、営業は体力勝負みたいなとこあるから」
一人涼しい顔をしてるのが憎らしい。彼は面白そうに言った。
「同じ営業なのに意外と佐伯さんは体力ないね? もっと鍛えないと」
「私は普通ですよ!」
「まだまだ」
そう言いつつ、彼もベッドにもぐりこんでくる。ぎしっと軋む音がした。一人用のベッドに二人一緒に寝るのは、明らかに定員オーバーだ。
狭い中で体を小さくさせ、お互い落ちないように必死になる。それがなんだかおかしくて、どちらともなく笑った。