完璧からはほど遠い
「そして最後に……嫌がる彼女に無理やり口づけた、と」

「…………い、いや、それは」

「時刻は夜、周りに人気のないアパート玄関前で、不意打ちに。知っていますか? 無理やりキスする行為は強制わいせつ罪に該当するんですよ。嫌がる相手の家に上がり込んで、プロポーズをして断られているにも関わらずキスをして、嘘の噂を流す。いかがですか」

「待ってください、何かの間違いで」

 反論しかけた大和に、成瀬さんはずいっと顔を寄せた。そして冷たい声でぴしゃりといった。

「ちなみにこれの目撃者は俺。俺がこの目で見たんだよ」

 その黒い声に、大和は黙り込んだ。体を固めて、真っ青な顔をしている。完全に混乱し動けなくなっているようだった。

 すっと成瀬さんは姿勢を正す。佐川部長に問いかけた。

「どうでしょうか。これは十分罰するに値する行為だと僕は思っています」

 佐川部長はじっと紙を読んでいる。少しして、一つ深い息を吐きだすと頷いた。

「同意する」

「では、僕が提案したように?」

「私から上に報告しよう」

 大和はぎょろぎょろと目を動かして二人を交互に見ていた。何がどうなるんだ、と焦っているようだ。そんな彼に、成瀬さんはにっこりと笑いかけた。

「富田さん、ご実家はS県の方でしたよね」

「は、はい」

「そちらにある支部に左遷です。ご実家から通ってください、そしてもう佐伯さんには二度と近づかないでください」

 大和はぽかんと口を開けた。付け足すように成瀬さんが言う。
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