完璧からはほど遠い
「でも掃除はめんどくさくないんですか? おうち綺麗ですよね」

「あー家事代行頼んでるからやってもらってるだけ」

「あ、なるほど。でも、なら食事も作ってもらえばいいじゃないですか。一週間分とか作り置きしてくれますよ」

「あー俺ね、他人が作ったものって基本食べれなくて」

 私の作った雑炊を頬張りながら、成瀬さんは言う。

「昔バレンタインでもらったチョコの中に、細かく刻んだ髪の毛が入ってたことがあって」

「ひ、ひぇえええ!!」

「もちろん外食とかは平気なんだけどさ、それ以外はどうしても食えなくて」
 
 なるほど、いい男ならではの悩みとも言える。モテすぎるがゆえそんなホラーな体験をしなくてはならないなんて、不憫だ。普段の成瀬さんなら、きっといっぱいプレゼントもらうだろうしなあ。

 そこで私は、黙々と雑炊を頬張る彼に言ってみた。

「でもあの。それ、私が作ったんですけど……」

 そう、さっきから口に入れているそれは紛れもなく私の手作り。そう言って渡したはずだ。

 成瀬さんはケロッとして言った。

「あ、佐伯さんは信頼してるから」

「は、はあ」

 首を傾げながら返事をした。成瀬さんとは仕事上の会話を交わすくらいで、そんな信頼を得るような関係ではないと思うのだが。しかし、私の疑問に気づいたのか彼は笑って言う。

「仕事ぶり見てたら分かるから。佐伯さんは真面目で信頼できる人。
 人の成功は一緒に喜べるし常に一生懸命。だから、大丈夫」

 きっぱり言い切った成瀬さんは、いつも職場で見る成瀬さんに見えた。
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