完璧からはほど遠い
「今回の件について、弁護士を通して内容証明をお送りしています。もし今後佐伯さんに近づくことがあれば警察へ通報します。あ、ちなみに、ご実家にもお話させて頂きました、ご両親とも理解のある方で、あなたが変な真似をしないように実家で見張るとおっしゃってくれました」

「はあ、お、親にまで!? ふざけんなよ!」

 大和がついに椅子を倒しながら立ち上がった。目を吊り上げて成瀬さんを睨んでいる。そして唾をまき散らしながら叫んだ。

「おかしいって、別れた後ちょっと話し合っただけじゃん!」

「佐伯さんは何度ももう関わらないでほしい、と警告したはずです。守らなかったのはあなたです」

「志乃、お前からも何か言えって。そもそもこいつと付き合ってるって嘘でしょ? そんなわけねーじゃん、お前は俺のところに戻ってくるつもりだろ?」

 最後まで頭がお花畑なのどうしよう。私は呆れて物も言えない。

 どうしてこんなに自分に自信があるのだろうか。成瀬さんもついに苛立ったようにすっと目を細め、顔を歪めて答えた。

「戻りませんよ。そもそも浮気して別れる原因を作ったのは自分のくせして、なぜそんなに自信が?」

「こんなの嘘だ、こんなはずじゃない! だってあずさは言ってた、志乃は結局心の奥では俺に未練があるから、押した方がいいって。志乃と一年付き合ってきたのは俺なんだから!」

 あずさ。その名前を聞いて、私は天を仰いだ。

 高橋さんの名である。
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