完璧からはほど遠い
 そういえば確かに、あのプロポーズの指輪もあの子が勧めてあげた、みたいなこと言ってたな。まさか裏でそうやってそそのかしていただなんて。結局あの子は何がしたいんだ。

 成瀬さんもその名を聞いた途端、眉をぴくぴくと震わせた。そして怒りのこもった声を静かに出す。

「へえ……なるほどね……そこがそうやって繋がってたわけか……」

「志乃、なんか言えよ! お前騙されてるって、こんなハイスペックな男がお前と付き合うなんて変だろ。目を覚ませって」

 私に詰めよってくる大和に数歩後退する。大和の顔はどう見てもイッちゃってて、恐怖に襲われる。そんな彼の肩に、成瀬さんが手を置き強引に振り返らせた。そして成瀬さんとは思えない恐ろしい形相で凄んだ。

「いい加減にしろこの屑が。おとなしく実家に帰って静かに暮らせ。浮気すんのも女性に無理やり迫るのもダサいんだよ、わかんねーの? これ以上喚くようならこのまま警察呼ぶ」

 大和が額に汗をかきながら唇を震わせている。ずっと静かにしていた佐川部長が、成瀬さんの名を呼んだ。彼はすぐにぱっと大和から離れ、私の隣りに寄りそうように立った。

 そしてにっこり営業スマイルを浮かべた。

「ただし、変な女にそそのかされて浮気したことは心の底から感謝申し上げます。そのおかげで僕はこんなに素敵な女性とお付き合いできたので」

 大和は助けを求めるような視線を私に送ってきた。華麗に無視してやった。一年も付き合った相手だけど、同情の気持ちも何も浮かばない。私は冷たい目で見つめ返してやった。
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