完璧からはほど遠い



 慌てて自分たちの職場へ向かった。やることはお互い盛りだくさんだ、特に成瀬さんは営業部のエース。私よりずっと重要な案件を沢山持っている人だ。

 私はすぐさま自分のデスクに行き、隣の今泉さんに挨拶をした。パソコンを立ち上げ、さて何から始めようかと思っていると、甲高い声が響いてきた。

「おはようございます成瀬さん!」

 耳を塞いでしまいたいぐらい、拒否反応が凄い。私は自然と眉を顰めていた。やや離れた場所に目を向けると、やはり高橋さんがうさぎかよと突っ込みたくなるぐらいに跳ねながら成瀬さんのデスクに近づいていた。朝っぱらから、なんだよ。

 彼女はオフィス中に響き渡るような声で言った。

「お味はどうでした??」

 カレーのことだ、と分かった。

 朝一番にみんなの前で、カレーの感想を聞いているのだあの子は。

 成瀬さんはああ、と思い出したように鞄から空の容器を取り出した。それを見て高橋さんはわっと声を上げる。

「全部食べてくれたんですかー!? 私が作ったカレー!」

 私が作った、をやけに強調している。周りがざわめくのが分かった。そりゃそうだよね、手作りのカレーを差し入れするなんて普通、深い仲だと勘違いしてしまう。

 成瀬さんは立ち上がり、容器を高橋さんに手渡す。

「はい、凄く美味しかったらしいよ」

「よかったですうー! 頑張って作ったんで」

「佐伯さんが全部食べてくれた」
< 133 / 156 >

この作品をシェア

pagetop