完璧からはほど遠い
 成瀬さんの言葉に、高橋さんは笑顔のまま固まった。私の名が出たことにより、周りの社員たちも固まった。隣に座る今泉さんに至っては、勢いよく私を振り返る。曖昧な笑みを浮かべて答えるしかなかった。

 成瀬さんは未だ笑顔を凍らせたままの高橋さんに言う。

「断ったはずだけど、もう一度言うね。俺高橋さんからの料理はいらないから。佐伯さんが作ったもの以外食べられないし」

 何十の目が一斉に私を見た。こんなに誰かに注目されることなんてなかなかない。私は居心地が悪くなって小さくなった。

 高橋さんも私の方を見る。そして理解できない、というように顔を歪めて首を傾げた。

「な、成瀬さんそう言うこと言うのよくないですよー? ほら、前も言ったけど佐伯さんに頼りすぎも」

「でも特別な人にならしてもらってもいい、って言ってたじゃん」

「は???」

「佐伯さんとようやく付き合えることになったので、もう引っ掻き回すのやめてくれる?」

「…………は」

 高橋さんは目を真ん丸にした。時間が止まったかのような沈黙が流れる。それを破るかのように、誰かの電話が鳴り響いた。慌ててそれに対応する人の音で我に返ったのか、高橋さんは大きな声で叫んだ。

「嘘、そんなの嘘ですよね!?」

「ほんとだけど。まあ、この話は置いておこう、それより高橋さんに話したいことがある。
 君何しに会社に来てるの?」

「……え、え?」

「今の指導係の村田と三人で時間を割き、今後について話したわけだけど、君からは全然やる気が感じられないっていうか。未だに少しでも複雑な仕事があるとほかの社員に頼ってるの、気づいてるよ。お前らも簡単に受け入れんな」

 成瀬さんが誰にともなく苛立った声で言った。自覚があるらしい数名の男性社員が視線を泳がせている。
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