完璧からはほど遠い
「俺は正直に言っただけ」

「私は何も悪くありません、周りが悪いんです。ここに入る前からずっと成瀬さんに憧れてたんですよ、絶対結婚するって決めてたんです!」

 おいおい何を言いだすかこの娘は。周りも見えていないのか、彼女は止まらない。

「同じ部署に入れてやっと近くになれたと思ったのに、ついた指導係は成瀬さんじゃないし。私には絶対成瀬さんがついた方がいいのに! 取引先なんてエロ親父ばっかりなんだから、私と組めば成瀬さんはもっともっと成績が伸ばせます。それを分かってない上司が無能なんです!
 しかも指導係は堅苦しくて真面目で息が詰まりそうだったし。大して可愛くもないくせに、仕事が細かいからってほかの男性社員からもよく思われててはあ? って感じ。身の程をわきまえて自分から指導係を辞退してくれればいいのに気がきかないし!」

「ほう」

「むかつくからちょっと怒らせようと思ったけど無理して涼しい顔して。男取られるなんて自分に魅力がないからって自覚すればいいのに!」

「なるほどねえ」

「その男も結局はあいつの方がよかったとか言って、頭空っぽ。お似合いだと思ってせっかく応援したげたのに何調子乗ってんの? あの人と成瀬さんが付き合うとかありえないじゃないですか! 私はこんなにずっと成瀬さんを見てきたのに!」

 数々の凄い発言を吐き出した高橋さんは、息をはあはあと乱している。誰も何一つ言葉を発せなかった。いつも高橋さんをキラキラして見ていた男性社員たちも、さすがにドン引きの目で彼女を遠くから眺めている。
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