完璧からはほど遠い
エピローグ
すっかり暗くなった頃、成瀬さんと共に帰宅した。
今日一日はとても濃い日だった。朝一で大和との話し合いがあり、その後すぐ高橋さんとのゴタゴタ。私は金曜休んだ分も仕事が溜まっていて忙しかったのに、昼にもなるとほかの女性社員たちに囲まれて質問の嵐だった。みんなあの成瀬さんとなぜ付き合えたのか鼻息荒くして聞いてきた。
彼がとんでもなく生活力がない人間、というのは言えるわけもなく、笑って話を濁すしかなかった。とりあえずあまり料理はしないので、ご飯の差し入れをするようになった、とだけ言っておいた。みんな羨望の眼差しで見てきて、ああやっぱり成瀬さんってすごい人なんだな、って再確認。
残業もして夜二十時を過ぎたころ、成瀬さんに声を掛けられて一緒に帰宅した。背中に突き刺さる視線が痛くてたまらなかった、背中に内出血出来てるかもしれない。
電車に乗り最寄り駅に降りると、自然と成瀬さんのマンションに向かっていた。それがなんだかずうずうしい気がして恥ずかしく、私はそわそわしながら成瀬さんの隣りを歩いていた。
寒さがぐっと強まり白い息が上がる。住宅街にポツンポツンとある街灯は、ほんのり照らすくらいで心もとない灯りだった。人気のない静かな道を二人分の足音が響く。
「うーさぶ! 夜はこたえるなー」
成瀬さんは肩をすくめて言った。そして思い出したように言う。
「あ、やばい、飯どうしよう? 帰りに何か買って行こうか」
「は、はい」
「はは、佐伯さんが一緒だとちゃんと飯食うからいいねー」