完璧からはほど遠い
「今のアパートさえ引っ越しちゃえば、大和も訪ねてこれないですよ」

「ダメダメ。何かあったどーすんの」

「でも」

「俺と一緒に暮らすの、いや?」

 私の顔を覗き込むようにして、悲し気に聞かれた。どきっと胸が鳴る。そう言われれば、私は否定することしかできないではないか。

「いやじゃないです!」

「大丈夫、言ったと思うけど俺それなりに家事も頑張るつもりだから! 完璧は無理かもだけど、佐伯さんに頼りきりじゃないよ」

「そんなことを心配してるわけじゃないんです」

「じゃあ、何?」

「……単に、心の準備っていうか。成瀬さんは私をよくしっかり者、みたいなこと言ってくれるけど、私だってずぼらで適当なとこあるんですよ。まだそんな私を見せる勇気が出ないんです」

 俯きながら小さな声で言った。

 なぜか成瀬さんも私を好いてくれて今付き合えてるわけだけど、そもそも私たちは釣り合ってない。散々大和や高橋さんも言ってたけど、正直納得してる自分もいる。

 外に出た成瀬さんはかっこよくて、仕事も出来て人望もある。私はよくいる一社員だ。

 俯いた私の手を、成瀬さんが突然握った。ひんやりした冷たい手だった。顔を上げると、彼はにこっと笑い、その手を引いて歩き出す。
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