完璧からはほど遠い
「悲しいな。俺は初めから結構佐伯さんにはさらけ出してるのに、佐伯さんだけ見せてくれないのは」

「そ、そりゃ私は」

「こんな俺が、佐伯さんの何を見て幻滅するっていうの? 飯もちゃんと食えない、掃除も人に任せてゴミ出しも出来ない、毛玉ついた服着てテーブルも持ってない。めんどいときは風呂もさぼる。はい、佐伯さんこれよりすごいエピソードある?」

「………………」

 ないわ。

 考えたけど出てこなかった。私もずぼらだけど、例えば食べた食器は次の日まで洗わないとか、日曜日はパジャマのまま過ごしちゃうとか、休日のお昼はお酒とカップラーメン食べてるとかそんなのだもんね。可愛いエピソードに思えてきてしまった。

 私の顔を見て成瀬さんが笑う。

「ね? 言っておくけど、佐伯さんが俺を好きになってくれたことの方が奇跡なわけ」

「そ、そんなことないですよ」

「俺からしたらそうなの。
 佐伯さんもそのままを出してほしい、俺絶対幻滅しないから。てゆうか正直に言うけど、佐伯さんを守りたいのもあるけどもっとずーっと一緒にいたいわけ」

 白い歯を出して恥ずかしそうに笑う成瀬さん。そんな笑顔、反則だ、と思った。胸がきゅううって痛くなる。

 こんなの、頷くしかないじゃないか。

 いつだってこうだ。私は成瀬さんに弱い。振り回されて、結局なんでも許してしまう。こんなに弱くて大丈夫なのかな。

「分かりました……よろしくお願いします」
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