完璧からはほど遠い
あのデートの裏話①
※二人がテーブルを買いに行った時のワンシーンです
昼食を食べ終えた私たちは、その足で買い物に出かけた。どうやら成瀬さんは買いたいものがあったらしく、それに付きあうことになったのだ。家具だけではなくほかの物も買い物するなんて、予想外のことだった。
しばらく歩いてメンズのショップに入る。うわあ、と心の中で声を漏らした。成瀬さんいつもこういうところで服買ってるんだ? お洒落に興味ないとか言ってたけど、全然そんなことないじゃないか。シンプルだけど上品なお店だ。
私は小声でその感想を正直に言った。
「成瀬さん、あんなこと言ってたけどお洒落なんですね!」
「え、何が?」
「だって、成瀬さんならもっとこう、デザインを気にしないかと」
私が笑いながら言う隣で、成瀬さんは近くの棚を見ている。そこにあった適当な服を手に取り、開いて見ながら言った。
「あのね、三枚」
「え?」
「今日着てるのを除くと二枚。それしか、外に出れる冬服ないんだよね」
「え??」
「まあ、正確に言えば、コンビニとか薬局行くぐらいの外用の服はもっとあるよ」
「それってもしや、いつも家で着てるみたいに毛玉ついてたりびろんびろんに首元が伸びてたり……?」
「ははは、そうそう。ユニ〇ロで五年以上前に買ったトレーナーとか」
天下のユニ〇ロも、五年愛用されれば寿命が来るのではないか。
「一応今日みたいに、誰かと出かけるための服が三枚あるわけ」
「さんまい」
私は呆然と呟いた。今日着てる服は、どう見ても綺麗だしお洒落で安心したけど、彼はこういう服はたった三枚しかないのだという。
もし万が一、今後も成瀬さんと外出する機会があるとすれば、四回目の時には今日の服に戻る。きっとローテーションだからだ。
「まあ、俺は困ったことないんだけどね。親しい友達は俺のだらしなさ知ってるから同じ服でもツッコんでこないしさ、会社はスーツ着てればいいし」
「は、はあ、なるほど」
「でもそろそろ四枚目を買っておかないと。こういう時じゃないと買うきっかけもないからさ。これでいいや」
なんとも適当に服を決めている。その時の成瀬さんの目に輝きはない。めんどくさそうに服を手に持っている。
やっぱり成瀬さんは成瀬さんだった。まあ、毛玉トレーナーで来なかっただけマシだよね。しかし勿体ない、成瀬さんほど顔よくてスタイルもいいなら、お洒落も楽しいだろうに。
ふと、近くにある服が目に入った。白いセーターだった。今日は黒を基調をしているファッションだったので、白い服を着た成瀬さんを想像すると何だかイメージが変わって面白い。
私は何となく手に取り、軽い気持ちで言った。
「成瀬さん白いのも似合いそう」
すると、ひょいっと彼がこちらを覗き込んだ。私が手に持ったそれを見て尋ねてくる。
「え、似合いそう?」
「あ、なんでも似合うと思いますけど」
「ふーんじゃあ買った」
なんとも簡単に決定し、彼は私からセーターを取った。あまりに即決だったので、慌てて止める。
「いいんですか!? 合わせてみるとか、ご自身の好みとか!」
「俺に好み聞く?」
「…合わせてみなくていいんですか」
「いいや、佐伯さんが似合うっていうなら」
なんだか嬉しそうに笑った彼に、つい可愛いと思ってしまった。子供みたい。結構簡単に人の意見を信じちゃうんだな。
私が似合うと言ったものを買ってくれる、というのが、なんとも嬉しくてむず痒くなった。そして調子にのった自分は、さらに近くにあった服を手に持ち、彼に合わせてみる。
「あ、こっちとかも似合います!」
「じゃあ買う」
「パンツとかはどうですか、こんな感じとか」
「買っておこうかな」
「成瀬さん、変な壺とか買わされたことありませんか?」
私はつい声を出して笑いながら言った。だって、すぐに買っちゃう。まあ、彼の場合持ってる服が極端に少ないから、何枚か買っておいて損はないと思うけど、不要なものまで買わされないか心配になるレベルだ。
手に服の山を持った成瀬さんは、ニコリと笑った。
「俺、誰のおすすめでも買うわけじゃないよ。
佐伯さんがすすめてくれたから買うんだよ」
「……え」
「他の人間のおすすめなんて興味ないしね」
「は、はあ」
「あ、でもさすがに佐伯さんでも壺はおすすめされても買わないよ?」
「す、すすめませんよそんなもの!」
笑いながら彼はレジに向かっていく。その後ろ姿を見ながら、一体なぜそんなにも自分を信頼してくれているんだろうなあ、と疑問に思った。
最初から料理だって食べてくれたし、それまであんまり話したこともなかったのに。
「ていうか、普通に聞いたら勘違いするって」
私はぽつんと呟いた。
罪な男だ。
昼食を食べ終えた私たちは、その足で買い物に出かけた。どうやら成瀬さんは買いたいものがあったらしく、それに付きあうことになったのだ。家具だけではなくほかの物も買い物するなんて、予想外のことだった。
しばらく歩いてメンズのショップに入る。うわあ、と心の中で声を漏らした。成瀬さんいつもこういうところで服買ってるんだ? お洒落に興味ないとか言ってたけど、全然そんなことないじゃないか。シンプルだけど上品なお店だ。
私は小声でその感想を正直に言った。
「成瀬さん、あんなこと言ってたけどお洒落なんですね!」
「え、何が?」
「だって、成瀬さんならもっとこう、デザインを気にしないかと」
私が笑いながら言う隣で、成瀬さんは近くの棚を見ている。そこにあった適当な服を手に取り、開いて見ながら言った。
「あのね、三枚」
「え?」
「今日着てるのを除くと二枚。それしか、外に出れる冬服ないんだよね」
「え??」
「まあ、正確に言えば、コンビニとか薬局行くぐらいの外用の服はもっとあるよ」
「それってもしや、いつも家で着てるみたいに毛玉ついてたりびろんびろんに首元が伸びてたり……?」
「ははは、そうそう。ユニ〇ロで五年以上前に買ったトレーナーとか」
天下のユニ〇ロも、五年愛用されれば寿命が来るのではないか。
「一応今日みたいに、誰かと出かけるための服が三枚あるわけ」
「さんまい」
私は呆然と呟いた。今日着てる服は、どう見ても綺麗だしお洒落で安心したけど、彼はこういう服はたった三枚しかないのだという。
もし万が一、今後も成瀬さんと外出する機会があるとすれば、四回目の時には今日の服に戻る。きっとローテーションだからだ。
「まあ、俺は困ったことないんだけどね。親しい友達は俺のだらしなさ知ってるから同じ服でもツッコんでこないしさ、会社はスーツ着てればいいし」
「は、はあ、なるほど」
「でもそろそろ四枚目を買っておかないと。こういう時じゃないと買うきっかけもないからさ。これでいいや」
なんとも適当に服を決めている。その時の成瀬さんの目に輝きはない。めんどくさそうに服を手に持っている。
やっぱり成瀬さんは成瀬さんだった。まあ、毛玉トレーナーで来なかっただけマシだよね。しかし勿体ない、成瀬さんほど顔よくてスタイルもいいなら、お洒落も楽しいだろうに。
ふと、近くにある服が目に入った。白いセーターだった。今日は黒を基調をしているファッションだったので、白い服を着た成瀬さんを想像すると何だかイメージが変わって面白い。
私は何となく手に取り、軽い気持ちで言った。
「成瀬さん白いのも似合いそう」
すると、ひょいっと彼がこちらを覗き込んだ。私が手に持ったそれを見て尋ねてくる。
「え、似合いそう?」
「あ、なんでも似合うと思いますけど」
「ふーんじゃあ買った」
なんとも簡単に決定し、彼は私からセーターを取った。あまりに即決だったので、慌てて止める。
「いいんですか!? 合わせてみるとか、ご自身の好みとか!」
「俺に好み聞く?」
「…合わせてみなくていいんですか」
「いいや、佐伯さんが似合うっていうなら」
なんだか嬉しそうに笑った彼に、つい可愛いと思ってしまった。子供みたい。結構簡単に人の意見を信じちゃうんだな。
私が似合うと言ったものを買ってくれる、というのが、なんとも嬉しくてむず痒くなった。そして調子にのった自分は、さらに近くにあった服を手に持ち、彼に合わせてみる。
「あ、こっちとかも似合います!」
「じゃあ買う」
「パンツとかはどうですか、こんな感じとか」
「買っておこうかな」
「成瀬さん、変な壺とか買わされたことありませんか?」
私はつい声を出して笑いながら言った。だって、すぐに買っちゃう。まあ、彼の場合持ってる服が極端に少ないから、何枚か買っておいて損はないと思うけど、不要なものまで買わされないか心配になるレベルだ。
手に服の山を持った成瀬さんは、ニコリと笑った。
「俺、誰のおすすめでも買うわけじゃないよ。
佐伯さんがすすめてくれたから買うんだよ」
「……え」
「他の人間のおすすめなんて興味ないしね」
「は、はあ」
「あ、でもさすがに佐伯さんでも壺はおすすめされても買わないよ?」
「す、すすめませんよそんなもの!」
笑いながら彼はレジに向かっていく。その後ろ姿を見ながら、一体なぜそんなにも自分を信頼してくれているんだろうなあ、と疑問に思った。
最初から料理だって食べてくれたし、それまであんまり話したこともなかったのに。
「ていうか、普通に聞いたら勘違いするって」
私はぽつんと呟いた。
罪な男だ。