完璧からはほど遠い
その後の二人①
成瀬さんがモテている。
いや、何をいまさら、と言われるかもしれない。彼は元々みんなから一目置かれていた人だし目立っていた。憧れている女子たちはそりゃ多かった。
けれども、成瀬さん自身は「モテてきた経験なんてない」と言い切っていた。何を言っているんだこの人は、と呆れていたのだが、あながちその言い分は間違っていないかも、と今は思っている。
というのも、多分手が届かない存在すぎたのだ。顔もよくて仕事もめちゃくちゃできる、なんてそれこそ漫画の世界の人のようで。性格もよかったし、非の打ちどころがないと多分、人間は少し近寄りがたいんだろう。それに成瀬さんはしばらく彼女はいらない、と思っていたせいか、女に誘われてもあまり乗ってこなかった。それも噂になり、みんなの成瀬さん、が出来上がった。
メンタル強めの高橋さんみたいな人たちはともかく、普通の子たちは遠巻きに眺めていることが多かったのでは。
だから本人もモテたりしてない、と思っていたのだ。
しかし、私と付き合いだしたことが公になって以降、この状況は一変する。
まず、女たちの敵だった高橋さんに容赦ない制裁を与えたことで、彼の株はさらに上がってしまった。やりすぎ、なんて声は一つも聞こえなかったのが、高橋さんの好感度がいかに低かったのかを表している。
さらに、付き合いだしたのが私というのが、多分色んな人に勇気を与えてしまった。私は特に秀でた容姿でもないし、あの子がイケたなら私も! と思う女子社員たちが増えてしまったのだ。なんとも複雑な思い。
そして、今。
外回りから帰って社内を歩いていると、キラキラ系の女子三人に囲まれた成瀬さんを発見してしまった。なんとなく姿を隠して、その様子を盗み見てしまう私は、多分自分に自信がないんだろうな。体を小さくして物陰に身をひそめてしまった。
こういう時、堂々と声を掛けられたらいいのに。
成瀬さんを囲んでいたのは、違う部署の人たちだった。三人とも凄く綺麗な人たちで、楽しそうに成瀬さんに話しかけている。
「……で! だから今日ランチ行きましょうよ!」
「そうしましょう! 成瀬さんとお話してみたかったんですよ」
「誰か他にもお友達連れてきてもらってもいいですけど、別にこの四人でもいいかなーと思いますが!」