完璧からはほど遠い
仕事が完璧でスマートで、何事にもぬかりなくてリーダー素質。大人っぽくてみんなの憧れの的なのに、今目の前にいるのまるで小学生男子じゃん……。
私はすぐに付け足した。
「あ、でも当然ですけど会社の人には誰にも言わないでくださいね!」
「え? なんで?」
「成瀬さんのご飯作ってるなんてばれたら私殺されますよ!」
「なんで俺のご飯作ったら殺されるの?」
きょとん、としてこちらを見ている。まじか、自分がどれほど影響力のある人間か自覚ないタイプなのか。女子たちの壮絶な取り合いも気づいてないのかなあ。
「……とにかく、秘密です」
成瀬さんはあっと思い出したように言う。
「それは全然いいんだけどさ、彼氏とか大丈夫? いい思いしないでしょ」
言われてつい視線を下ろした。苦笑しながら答える。
「彼氏は今、いません」
「え」
「昨日からいません」
ほとんど忘れていた大和と高橋さんのことを思い出す。すると成瀬さんの声が少しだけ低くなった。
「それは昨日、佐伯さんが珍しいミスをやらかしたことと関係ある?」
どきっとする。
緩んでいた気持ちが引き締まる。そのことで散々迷惑かけたのだ。社会人としてみっともないと自分でも思う。
私は静かに頭を下げた。
「プライベートと仕事をごっちゃにさせるなんて、本当に情けないです。すみませんでした」
「まあ確かにプライベートを持ち込むのはよくないことではある。でも、私生活あってこその仕事だ。私生活が充実してなければ仕事も上手く行かないのは当然のこと。
何かあったの?」
「……私の身近な子と、浮気されまして」
苦笑いして答える。高橋さんの名前は伏せておいた。同じ部署内の人に言うのはよくない、と微かな理性が働いたのだ。正直言えば、言ってやりたい気持ちは十分ある。
でももしかしたら、私の彼氏だと知らなかったのかもしれない。そうすれば悪いのは大和一人であって、彼女は騙されていたとも言える。
「すみません、それで上の空だったのは確かです。ちゃんと自分をコントロールできないうちは、休むのも手だと改めて痛感しました。たくさんご迷惑をおかけして」
「よかったじゃん」
言いかけている途中でそんな言葉が届き、私は驚きで顔を上げた。雑炊を食べ終わった成瀬さんは、胡坐をかいていた。微笑を浮かべ、彼は私を見ている。
私はすぐに付け足した。
「あ、でも当然ですけど会社の人には誰にも言わないでくださいね!」
「え? なんで?」
「成瀬さんのご飯作ってるなんてばれたら私殺されますよ!」
「なんで俺のご飯作ったら殺されるの?」
きょとん、としてこちらを見ている。まじか、自分がどれほど影響力のある人間か自覚ないタイプなのか。女子たちの壮絶な取り合いも気づいてないのかなあ。
「……とにかく、秘密です」
成瀬さんはあっと思い出したように言う。
「それは全然いいんだけどさ、彼氏とか大丈夫? いい思いしないでしょ」
言われてつい視線を下ろした。苦笑しながら答える。
「彼氏は今、いません」
「え」
「昨日からいません」
ほとんど忘れていた大和と高橋さんのことを思い出す。すると成瀬さんの声が少しだけ低くなった。
「それは昨日、佐伯さんが珍しいミスをやらかしたことと関係ある?」
どきっとする。
緩んでいた気持ちが引き締まる。そのことで散々迷惑かけたのだ。社会人としてみっともないと自分でも思う。
私は静かに頭を下げた。
「プライベートと仕事をごっちゃにさせるなんて、本当に情けないです。すみませんでした」
「まあ確かにプライベートを持ち込むのはよくないことではある。でも、私生活あってこその仕事だ。私生活が充実してなければ仕事も上手く行かないのは当然のこと。
何かあったの?」
「……私の身近な子と、浮気されまして」
苦笑いして答える。高橋さんの名前は伏せておいた。同じ部署内の人に言うのはよくない、と微かな理性が働いたのだ。正直言えば、言ってやりたい気持ちは十分ある。
でももしかしたら、私の彼氏だと知らなかったのかもしれない。そうすれば悪いのは大和一人であって、彼女は騙されていたとも言える。
「すみません、それで上の空だったのは確かです。ちゃんと自分をコントロールできないうちは、休むのも手だと改めて痛感しました。たくさんご迷惑をおかけして」
「よかったじゃん」
言いかけている途中でそんな言葉が届き、私は驚きで顔を上げた。雑炊を食べ終わった成瀬さんは、胡坐をかいていた。微笑を浮かべ、彼は私を見ている。