完璧からはほど遠い


 なるほど。どうやら、あと少ししたら昼時なので、三人はランチに誘っているようだった。

 それぞれ目を輝かせて成瀬さんを見上げている。私だったら、あんな可愛い子たちに囲まれたら嬉しくなっちゃうな、とぼんやり思った。

 成瀬さんは答える。

「え、そのハンバーグ屋?」

「そうです! すっごく美味しいですよ、知り合いに招待されたから、かなり値引きしてくれるんですってー特別ですよ」

「有名なお店らしいですよ! 行きましょう! お仕事の話も聞いてみたいしー」

「うーんでも俺、弁当あるから」

 彼はにっこり笑って、持っていた鞄を見下ろした。黒い鞄をみな一斉に見る。私はああ、と頭を抱えてしまった。

 昨晩、作りすぎてしまったおかずを何とかしたくて、一人『あしたお弁当にしよう』と呟いた。すると、耳がいいことに、成瀬さんは『俺も欲しい』とお願いしてきた。残り物入れるだけですけど、と言ったが、彼は構わないというので、彼の分も用意した。

 残り物と、適当に焼いた卵焼き、チンして味付けただけのほうれん草。あとは冷食という、質素な中身。

 しまったと後悔した。お弁当なんて用意しなかったら、成瀬さんは美味しいハンバーグを食べられたのかも。っていやいや、あんな女の子たちとランチ行かれるの嫌じゃん、お弁当用意して正解だったよ。でも、どうも虚しい。

 お弁当なんてお願いしなきゃよかった、そう彼に思われていたら。

 複雑な気持ちでいる私をよそに、女の子が一人言った。

「えー彼女が作ったやつですか?」

「うんそう」

「でもハンバーグ今日しか行けませんよ! お弁当なんて別に残してもよくないですか? それかこっそり…ねえ?」

 笑いながら言う。ああ、捨てちゃってもいいんじゃないですか、そう言いたいのだ。

 確かに普通に考えて、残り物のお弁当より、お店のハンバーグの方が美味しいけどさ……。私は俯く。
< 150 / 156 >

この作品をシェア

pagetop