完璧からはほど遠い


 と、いうわけで、休日くらい代わりに風呂掃除をやってあげよう、と思ったのだ。


 一通り掃除を終えリビングに入り時間を見てみると、正午が近くなっていた。ああ、いい加減お昼ごはんをなんとかしなきゃなと思っていると、背後からのそのそっという足音が聞こえてきた。

「ふああーおはよー」

 全然おはよう、の時間ではないのだが、成瀬さんはあくびしながら私にそう挨拶をしてくる。彼の前髪は寝ぐせで跳ねていた。笑って答えた。

「おはようっていうかこんにちはです」

「ほんとだー寝すぎた。はー歯磨きしてこよ」

 そう言って洗面所に消えていく。起きたばかりだし、昼食はもう少し経ってからかなあとソファに座って考えていると、しばらくして成瀬さんがやってきた。今度はしっかりした足音だった。

「ねえ、お風呂掃除ってした?」

「え? あ、さっき時間があったから」

 正直に答える。私はてっきり、ありがとうと感謝されるかと思っていた。成瀬さんは掃除が嫌いなはずだし。

 だが彼は予想外に、私の隣りに腰かけると、眉をひそめて言った。

「俺の担当だから、志乃はしなくていいんだよ」

「え、でも時間があったし」

「ぼーっと休んでればいいの。俺を甘やかしちゃだめだよ、そりゃなかなか起きなくて申し訳ないけど、起きたらちゃんとやるから」

「違うの、起きないから怒ってやったわけじゃないの! いつも頑張ってくれてるから」

「そんなの、ご飯いつも作ってくれてるし頑張ってるのは同じじゃん。
 そりゃ仕事が凄く忙しいとか、体調悪いときとかは協力し合えばいいよ。でもそうじゃないときに、どっちかが負担を大きくするのはよくない。志乃が大変になっちゃうよ」

 彼は真剣なまなざしでそう言う。私は俯いて答えた。

「だって……成瀬さん、無理してないかなあって。今まで動かない生活に慣れてたのに、ここにきて家事とかさせられて、こんな生活が嫌になったりしないかな、って」

 そう、私の本音はそこにあった。

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