完璧からはほど遠い

「ねー成瀬さんって家だとどんな感じ??」

 今泉さんが目をキラキラ輝かせてみてくる。私はお箸を握りなおした。社食で頼んだチキン南蛮をとりあえず頬張る。

 こういう質問、よく来るんだよなあ。でも、まさか本当のことなんて言えない。沙織はともかく、同じ部署の仲間に言っても信じてもらえないと思うからだ。今日だって、彼は難しいと言われていた契約をサラリと取ってきて、みんなから羨望の眼差しで見られていたところだし。

「まあ、普通、ですよ……」

「成瀬さんなら起きてもすぐシャキッとしてそうー」

「ははは」

「家事とかもそつなくこなしてそうー料理とか上手そうー」

「は、ははは……」

「暇な時間はコーヒー片手に座って、涼しい顔で読書とかしてそうー!!」

「はは、は……」

 誰が想像できるだろう。朝は起こしても全然起きないし、寝ぐせつけたまま眠そうに風呂掃除をして、空いた時間は大概ソファに寝そべってる彼を。

「誰の話?」

「うわあっ」

 背後から声がしたので飛び上がる。トレイを手にした成瀬さんが立って笑っていた。

「もしかして俺?」

 今泉さんがなんだか恥ずかしそうに言う。

「あは、成瀬さんはお家でもスマートなんだろうなーって話ですよ!」

「ぜーんぜん。俺だらしないから」

「えー絶対そんなことなーい!」

「あれ、てか佐伯さんもチキン南蛮? 一緒だった」

 彼は私を覗き込んで言う。確かに、同じメニューを選んだらしかった。

 今泉さんがにやにやして言う。

「息がぴったりですねえー」

「まあ、志乃が作ったやつの方が美味しいんだけどね」

 そうサラリと言った彼は、言い終えてすぐ『あ、志乃って呼んじゃった』と笑った。今泉さんは今にも叫びだしそうな顔で悶えている。私はなんて答えていいか分からず、ああ、また彼の株が上がったなあなんて考える。

 過ぎ去っていった成瀬さんの背中をうっとり眺めながら、今泉さんは言った。

「完璧だわ……絶対離しちゃだめな男だよ。あんな完璧な男他にいない」

「ははは」

 今日何度目か分からない愛想笑いを浮かべた。



 おわり。
最後までお付き合い頂きありがとうございました!
またお会いする日まで。
< 156 / 156 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:411

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

日給10万の結婚

総文字数/180,307

恋愛(純愛)169ページ

表紙を見る
あなたに嫌われたいんです

総文字数/124,143

恋愛(純愛)103ページ

表紙を見る
片想い婚

総文字数/188,129

恋愛(純愛)141ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop