完璧からはほど遠い
週明け、出勤しすぐに仕事に取り掛かっていると、背後から声がした。高橋さんの声だった。
「おはようございますー。あのう、佐伯さん?」
おずおずと話しかけてくる。私はキーボードを打ち込んでいた手を止め、くるりと振り返った。
相変わらず毛先まで手入れの行き届いた彼女。私の様子を伺うように見ている。
私はにっこりと微笑んだ。
「おはよう、高橋さん」
「お、おはようございます」
「これ、金曜日休んでたから預かってたよ、次の会議の資料のことだって」
私は何事もなかったように笑顔で話した。普段通り仕事の指示をだし、どんな仕事の内容も丁寧に教えた。
私が余裕をもって接することが、一番相手には痛い。そう言ってくれた成瀬さんの言葉を胸に、決してあの件には触れずに仕事を淡々とこなしていった。
そんな私を、なぜか不満げに高橋さんは見ていた気がするが、気のせいだろう。そんなことを考える暇さえもったいない。
私は私のことだけ考えるんだ。
普段以上のスピードと集中力で仕事をさばいていると、背後から声がした。