完璧からはほど遠い
 声をかけようとして、沙織がギロリと私を見たので固まってしまった。黒髪ロングヘア、きりっとした美人系なので、睨むと迫力が凄い。

 沙織ははあと息を吐く。

「そこ座って」

「え、私今から尋問されるの?」

「当たり前でしょ心当たりあるでしょ。はい、このパスタランチでいいよね、すみませーん」

 もはやランチを選ぶ時間すら与えてもらえなかった。まあパスタは好きなのでいいんだけど、これは随分怒ってると見た、確かに報告が遅くなってしまったもんなあ。私は小さくなり怯える。

 注文し終えると、運ばれたお冷を一口飲み、沙織は腕を組んだ。

「……昨日、大和と帰り道ばったり会った」

「は、はあ」

「知らないキラキラ系女子と仲良さそうに歩いてた」

「は、はあ」

「あれって営業部の子じゃない? どうなってんの、あんたたちいつの間に別れたの!?」

 私は頷きながら、報告していなかったことを謝った。そして、事のあらましを告げた。

 残業の帰りホテルから出てくる場面を見てしまい、その場で別れを告げて以来会っていないこと。沙織はこれでもかというくらい目を見開き、わなわなと震えて爆発するんじゃないかと心配になるほどだった。

「な……な!」

「それが二週間前のことで。言わなきゃって思ってたのに、ほんとごめん」

「浮気してたの? しかも志乃と同じ部署の子と?」

「同じ部署で、さらに言えば指導係を勤めてる後輩だよ」

「は!? じゃあ、あの全然仕事できなくて残業のしわ寄せが志乃に来てるって言ってた、あの後輩!?」

「今は付き合ってるみたいだね。ちょいちょい匂わせてくる」

 沙織は勢いよく机に突っ伏した。まさか大和が浮気したとは思っていなかったらしい。彼女は拳を震わせながら言う。

「い、いや、まさかそんなすごい展開だとは思ってもなかった……そりゃなかなか人にも言えないよ……よりにもよって、そんな相手と浮気してそのあとも堂々と付き合うとか、頭どうなってんのあいつ。そんな男だったっけ!?」

「そんな男だったみたいだね」
< 22 / 156 >

この作品をシェア

pagetop