完璧からはほど遠い
「あ、材料費とか多めに貰ってるよ。バイトみたいなもんかな、家事代行?」

「鍵までもらって? 家に入ってんの?」

「まあ、預かってるけど」

「何それ。抱かれたの?」

「ぶほっ」

 私は思いきり吹き出してしまう。なんてことを言いだすんだこの子は。慌てて否定した。

「ないない! 全然ないから!」

「ふーん?」

「そういうのほんとないよ。ご飯だけ食べて終わり、って感じで。相手も絶対そんな気ない」

「よくわかんないけど不思議な関係だね」

 それには強く頷いた。倒れた成瀬さんを看病したことで知ってしまったあの生活ぶりなんだけど、まさか合鍵を使ってご飯を運びにいく関係になるなんて思ってもみなかった。

 ちょうど頼んだランチが運ばれれてくる。私たちはフォークを手に持ち、熱々のパスタに手を伸ばす。だがそこで、沙織が変なことを言ったので、食べる手が止まってしまった。

「まあ新しい恋を見つけて忘れたっていうならよかった」

「え?」

 ぽかんとして沙織を見る。だが、向こうは向こうでぽかん、として私を見ていた。

「え、そういうことでしょ? だって、いくら副業を始めて忙しいからって、そんな前向きになれないでしょ」

「い、いや違うよ。確かに言われた言葉に救われて前向きになれたけど、そこに恋愛感情とかないから」

「え? 違うの?」

「違うよほんと」
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