完璧からはほど遠い





 その日も少し残業をこなし、仕事を切り上げた。窓の外を眺めると、当然ながら真っ暗だ。いつの間に降り出したのか大粒の雨が見える。それを眺めながら、成瀬さんが倒れた日のことを思い出していた。

 そうだ、晩御飯どうしようかな。簡単にカレーでも大量に作って成瀬さんに持って行こうか。カレーなら手の込んだことをしなければすぐに完成出来る。家の材料も十分だし。

 そう思いながら帰り支度をしている自分の口角が上がっていることに気が付いた。駄目だこれ、完全に餌付けして楽しんでるかも。だって成瀬さん食べっぷりいいし、毎回美味しいって言ってくれるから、単純に見ていて気持ちいんだよなあ。

 そうと決まれば足早にオフィスを去る。エレベーターで下り、出口で一旦立ち止まった。やはり、雨が地面に怒りをぶつけているようだ。私は鞄の中から折り畳み傘を取り出そうと漁る。

「傘、入っていく?」

 背後からそんな声がしたので、振り返る。そこに立っていた人物を見て、息が止まる。

 大和だった。

 あの事件以来一度も顔を合わせていない。付き合ってるときはしょっちゅう会っていたので、やけに久しぶりに感じた。

 短髪で少しだけ釣り目。それがきりっとした印象で、私は好きだった。ノリがよくて豪快。高校の頃サッカー部のエースだったらしく、今でも休日に趣味でフットサルを楽しんでる。楽しそうにボールを追う姿が、とても爽やかだった。
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