完璧からはほど遠い
家に戻ると無心で野菜を切った。
頭の中はぐちゃぐちゃで何を考えているかもよく分からなかった。とにかく大和からあんな発言をぶつけられるなんて思ってもみなかったから、何が起こったのかさえ理解できていない気がした。
解凍した肉も使って炒め、水を足す。適当に煮込んだらルーを割り入れ、部屋中に食欲を誘う香りが充満した。それでも、私は食べたいとは思わなかった。
無言のままカレーを小分けする。そしてそれを袋に適当に入れると、部屋から飛び出した。
歩いて少ししたらすぐに見えてくるマンション。手に持っている鍵を使い、もう慣れさえも出てきた成瀬さんの部屋に入った。相変わらず玄関にゴミ袋がある。もう、前日に明日はゴミの日ですよって教えてあげたのに。
「お邪魔します、成瀬さーん?」
廊下を抜けてリビングの扉を開ける。ソファの方を見て、そこに誰もいないことに気が付いた。普段、必ずと言っていいほどあそこにいるのに。寝室かな、それとももしかして留守? 会社にはいなかったし残業じゃないと思うのだが。
いないかも、と思うと心がずんと落ちた。いつも入れば必ず成瀬さんはいたし、いないなんて想定していなかった。今日は大和のこともあったから、話し相手が欲しかったのかもしれない。でも仕方ない、カレーだけ置いて帰ろうか。
くるりと踵を返した途端、何かに顔面をぶつけてしまい倒れそうになる。後ろに傾いた私の体を、熱い腕が支えてくれた。
「おっと、ごめん佐伯さん」
見上げると成瀬さんだった。彼はやや毛玉のついたスウェットに、肩にタオルをかけている。髪が濡れ毛先から水滴が落ちていた。風呂上りらしい。