完璧からはほど遠い
「あ、成瀬さん!」

「ごめん、ふろ入ってた」

 そう子犬のように笑う彼の顔を見ると、ずっとさっきまであった胸のもやもやがすっと消えた。肩に入っていた力が抜ける。いないかと思っていたので、会えてほっとしてしまった。

 めんどくさそうに毛先の水分を拭いている。仕事中の成瀬さんとは違うオフの彼は、なんだか見てると気が抜けるんだよなあ。

 これが大型契約取ってくる凄いお人なんだもんなあ……。

「あ、こ、こんばんは。成瀬さん、ご飯は食べられないのにお風呂は入れるんですね」

「風呂とか歯磨きはかろうじてするって最初に言ったはずだよ。虫歯とか痛いの嫌いだしね。まあ正直言うと、次の日が休みなら風呂はさぼることもある」

「え゛」

「男なんてみんなそんなもんだよ」

 そうニッと笑って見せる彼に、つい笑ってしまった。絶対に『みんな』ではないと思う。

「ていうか、その匂いカレー?」

「あ、分かりますか? 大量に作ったのでこれ」

「やったー俺カレー大好き! 食べようっと」

「ご飯も持ってきました」

「完璧じゃん……」

 私の手から袋を受け取ると、目をキラキラと輝かせる。またしても笑ってしまった。

 成瀬さんはソファの前に正座すると早速袋を漁り始める。私は慌てて言った。
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