完璧からはほど遠い
「成瀬さん、食べるにしてもまず髪を乾かした方がいいじゃないですか」

「男なんてみんな髪乾かしたりしないって」

「(だから絶対みんなじゃないと思う)
 夏ならまだしも、こんな寒い時期じゃ風邪ひきますよ! ドライヤーどこにあるんですか!」

「えー洗面台の下に一応入ってるけど、一度も使ったことないから使いかたわかんない」

「コード指してスイッチ押すだけですよ絶対」

 私は呆れながら洗面所にお邪魔する。すっきりした洗面所の扉を開けてみると、確かにドライヤーが奥の方にひっそり置いてあった。私はそれを手にして戻る。

 彼はすでにカレーのふたを開けていた。私はコードをコンセントに刺し、成瀬さんに見せる。

「ほら、あとはこれで温風が出ますから」

「あ、乾かしてくれんの? ありがとう、頂きます」

「へっ」

 きょとんとした私をよそに、彼はカレーを頬張り始める。美味しそうに笑顔で唸りどんどん食べ進めていく。髪を乾かす気はさらさらないようだ。

 ここまで準備してしまった手前、今更引き下がることも出来ず、私は恐る恐るドライヤーのスイッチを入れ、成瀬さんの髪に触れた。こんなこと、大和にすらやったことなかった。やけに緊張してしまう。

 成瀬さんって、めんどくさがり屋な上、人との距離感もちょっとおかしいんだな。財布とか鍵とかすぐ預けちゃうし……。
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