完璧からはほど遠い
 ドキドキしながら髪を乾かしていく。長さはあまりないのですぐに乾いた。私はスイッチを切りコンセントを抜くと、彼はすでに一杯目を食べ終わっているようだった。

「うまい! おかわりいい?」

「ど、どうぞ」

「あ、髪ありがと。おお、乾くとなんか頭が軽いな」

「ちゃんと乾かさないとまた熱出しちゃいますよ」

「佐伯さんは面倒見がいいねー。ほんと凄い」

 ほくほくした顔でまたカレーを食べ始めている。私は呆れと、なんだか微笑ましい気持ちになった。これもしかして、感覚が麻痺してきている? 普通に考えて、成人男性がこんな生活してるの微笑ましいわけがないのだが。

 成瀬さんはもぐもぐと食べつつ、私に突然聞いた。

「でもなんかあった? 元気ないね」

 そんな鋭いことをぶち込んできた成瀬さんに、私はぎょっとして目を丸くした。彼は食べる手は止めないままさらに言う。

「なんとなくそう思っただけだけど。なんかあったかな、って」

 ごくりと唾を飲み込んだ。それはもちろん、帰りに大和に会ったことが原因だろう。

 復縁を迫られて、自分のことは好きじゃないんだろうとか言われて、心は乱れている。でも成瀬さんに会うと彼のペースに巻き込まれて半ば忘れていたのだが、なぜ気づかれたというのだろうか。洞察力が凄すぎる。

 言おうかと口を開いて、閉じた。こんなこと、言っていいのかな。浮気されたことは口が滑っちゃったけど、あまりに個人的な話で成瀬さんを困らせるかも。

 私は笑顔を作って答えた。

「ちょっと予想外のことが起きたんですけど、大丈夫です。すぐに解決しそうなので」

 私が言うと、成瀬さんはちらりとだけ私を見た。少し間があった後、深く追及はせずに再びカレーを食べ始めた。これ以上聞かれないことにほっと胸を撫でおろした。
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