完璧からはほど遠い
 しばし沈黙が流れた後、成瀬さんがあっと思い出したように言った。

「そういえばさ、休み空いてるところない?」

「え? ああ、晩御飯なら」

「そうじゃなくて、いい加減テーブル買おうかと思ってるんだけど、一人じゃめんどくさくて動けなくてさ。
 佐伯さんも前買い換えたいって言ってたじゃん? 一緒に家具屋行ってくれないかな。誰かと約束すれば俺動けるから」

「えっ」

 思ってもみないお誘いに驚く。休日に二人で買い物? しかも家具屋だと。

 成瀬さんは何も考えて無さそうに軽く言ってくれたけど、成瀬さんと並んで歩くなんて緊張してしまうのだが……。

 なぜかドキドキと胸が鳴った。でも断る理由も特にないので、頷く。

「は、はい、私も見たいなあと思ってたので」

「よかった! 佐伯さんのおかげで食事もまともに取れるようになったし、さすがにテーブル買わなきゃなって。俺最近人間みたいだなって思う」

「人間なのでは」

「人間だと信じてる」

「あ! でもどこにいくんでしょう? あまり近くだと、会社の関係者に見られたりするかも」

 私が慌てると、成瀬さんが不思議そうに言った。

「前も言ってたけど、なんで俺の家来てることとか言っちゃだめなの?」

「成瀬さん自覚してください! 人間であるどころか、会社では凄く目立つ人なんですよ! 私みたいなモブ人間が成瀬さんと関わってるってだけで、壮絶な嫉妬に襲われることが想像できます!」

「え? 俺目立ってる? 寝ぐせちゃんと直してるつもりなんだけど」

「寝ぐせじゃないですよモテてるってことですよ!」

「え! モテてる? 全然だって、そんな体験したことねーもん」

 なんだこの会話。私は眉を顰める。そんなわけないじゃないか、もう一度言う、そんなわけないじゃないか。
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