完璧からはほど遠い
 普段の成瀬さんはみんなの憧れだ。その外見だけで目を引くし、仕事ぶりを知ればなおさら。女子社員たちの憧れの的なのに、何を言っているんだろう。

「とにかく、もし知られたら私きっと会社に居づらくなります。彼女でもないのに家に出入りしているなんて、どんな怒りを買うか」

「彼女だったらいいの?」

「えっ。
 そ、そういえば、成瀬さんどうして彼女いないんですか、あれだけモテモテなのに」

 なんだか一人でドキッとしてしまったのを隠すように話題をそらした。絶対深い意味なんてない素直な疑問にいちいち反応なんてしてられない。

 彼はカレーを頬張りながら考える。

「いや付き合った子は大体『イメージと違った』って幻滅してくから……ちゃんと自分でもまともな生活が送れるようになったら作ろう、って心に決めてから、そんな生活が送れていないだけ」

「ああ……イメージ……」

 つい納得してしまった。外にいる成瀬さんを見たあと、この成瀬さんを見たらギャップに愕然とする。だってテーブル持ってないし、二日もご飯食べずにいられる人間だなんて誰が思う? そりゃなかなか受け入れられないか。

 成瀬さんはため息をついて言う。

「だからねーモテてる、って言われても、絶対プライベート見たら離れるじゃん、って分かるし、たいして嬉しくないよね」

 なるほど、と理解した。彼自身もややコンプレックスに思っているということか。プライベートの自分は受け入れられない体験をしているがゆえ、ちょっと自信を無くしているのか。

 これまた意外な一面だ、仕事面ではあんなに自信たっぷりではないか。

「……まあ、私も最初はびっくりしましたけど」

「やっぱね」

「でも、話してるとやっぱり成瀬さんだなあ、って思うことよくありますよ」

 彼はふと手を止めて私を見る。意外そうな顔だ。

「生活力のなさはびっくりして別人かなって思ったけど、私の失恋に的確な励ましをくれたり、落ち込んでることにすぐに気が付いてくれたり、やっぱりそういうところは成瀬さんです。普段の成瀬さんが垣間見えます」

 笑顔で嘘偽りなく言った。
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