完璧からはほど遠い
「……」
「これでも普段の様子もしっかり見てる方だと思うよ。どうすれ違ったのか分からないけど、佐伯さんは故意に人を傷つけるような人ではないことは確かだ。普段から厳しいっていうのも、捉え方次第なのか……」
「少なくとも私はそんなふうには感じませんよ」
突然声が響いた。成瀬さんの後ろから現れたのは、今泉さんだったのだ。
今泉さんは堂々とした様子で私たちの中に入ると、ちらっとだけ高橋さんを横目で見、言う。
「私は佐伯さんの隣りの席ですから、指導してる様子はいつも見てます。佐伯さんは丁寧で優しいし、怒ってるところなんて見たことないですよ。あれで厳しいなんて言ってるなら相手が誰でもそう感じるんじゃないですか?」
ありがたい発言。私は心の底から今泉さんにお礼を述べた。ああ、ちゃんと普段から頑張ってるところを見てくれてる人がいるって、なんて幸せなんだろう。
高橋さんは無言で今泉さんを睨んだ。おお、怖。本当の顔が見えた感じ。
成瀬さんははあ、とため息をつく。
「なるほどね。まあ、これ以上議論しても結果は一緒だろう、二人は合わないってことだ。高橋さんの指導係は誰かに代わってもらった方がいいのかも」
それを聞いて心でガッツポーズを取ったのは私だ。正直、高橋さんのミスをカバーするのも疲れたし、何よりもう関わりたくないと心の底から思っている。だがしかし、喜んだのは向こうも一緒だったらしい。高橋さんは、弾んだ声で叫んだのだ。
「じゃあ成瀬さんにお願いしたいですっ!!」
「……へ」
一同、ぽかん顔。目をキラキラと輝かせた高橋さんは、ずいっと成瀬さんに体を寄せ、甘えるようにしてなお続ける。
「だってこれ以上ないお人ですよー営業トップの成瀬さん、ぜひお仕事教えてもらいたいですっ! 私頑張りますから!」
私は唖然としながら彼女の横顔を見つめた。そしてふと思ったのだ。
もしかして最初からこれが目的だった?
指導係を代えてほしい。もちろん自分の立場が悪くならないように。となれば、私を怒らせてそんな流れに持っていくのが一番自然だろう。彼氏を寝取ってみたり、その後も交際を匂わせたりして、私を怒らせたかった? 後輩に彼氏を取られました、なんて、私が口に出せないのも分かってて。
……考えすぎかな。普通そこまでやらない、よね?
周りで黙っていた男性社員が、さすがに困ったように口を開いた。
「いや、高橋さん。成瀬さは、俺らとは違って大きな案件とか抱えてて忙しさが比じゃないんだよ。指導係とか無理だから」
「うん、成瀬はね。俺やってもいいよ」
「えーー! 成瀬さんがいいんです」
引かないぞこの小娘。
全員困り果てて高橋さんを見ている。今泉さんはもはや舌打ちして睨んでいた。顔に出しすぎです、今泉さん。
成瀬さんは頭を掻きながら答えた。
「ていうかまあ、指導係のことはまずもっと上の人と相談しないと、さすがに俺の独断じゃ出来ないし」
「ええ……」
「みんなが言うように俺は外されると思うけど」
「そんな! 成瀬さんがいいんですっ!」
「そう言われても無理だし」
キッパリと言われ、高橋さんは膨れた。が、すぐに言う。