完璧からはほど遠い
 ゆっくりとした歩調で歩きながら、成瀬さんが言う。

「確かあっちにあるんだよ、結構大きな家具屋。よさげなやつ」

「えっと、成瀬さんはどういうのがいいとかあるんですか?」

「うーんそんなにこだわりはないけどね。サイズが合ってて、使いやすそうな感じならなんでもいいかな。佐伯さんは?」

「私はガラス製とかいいなーって」

「あれ指紋付くじゃん、俺絶対無理だわ。指紋だらけになる」

「ああ、確かに成瀬さんにはちょっと」

「汚れが目立たないやつがいい」

「一応見た目綺麗でいたい、という感覚はあるんですよねえ、家事代行頼むくらいだし、仕事中もいつだってデスク上は綺麗だし」

「綺麗好きだけど動きたくないという最悪パターンな」

「あはは!」
 
 二人で話しながら歩みを進めていく。ずっと緊張していたのが嘘みたいだ。話してみればいつも通りの成瀬さんで、家にいるのかと勘違いしてしまうほどのリラックス。

 成瀬さんは続ける。

「はあー俺がテーブル買う日が来るとは思ってなかった。一生買わないかと思ってた」

「信じられませんよ私からしたら……」

「佐伯さんのおかげだねほんと。ご飯めちゃくちゃ美味しいし、俺本当助かってる。なんであんな料理上手いの?」

「あの、本当に謙遜ではなく料理上手くないですよ別に。並みだと思います。本当に料理上手な人はルーを使わずカレー作るんですよ」

「へえー! じゃあ俺の好みの味が似てるのかな? いつ食っても本当に美味いの。外食より美味い」

「大げさな……」
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