完璧からはほど遠い
 そういいつつ、にやける頬が戻らない。ああ、今度は手が込んだもの作ってみようかな、なんて、単純にもほどがある。元々料理は好きなタイプではなかったというのに、褒められたらすぐこれだ。

 大和にだって作ったことはある。まあ、普通に『美味しい』って完食はしてくれたけど、成瀬さんほど感動してなかったんだよな。

 なんだかんだ会話が途切れることなく話していると、目的の家具屋にたどり着く。かなり大きい、そしてお洒落な家具屋だ。ここら辺では一番有名らしい。私たちはそのまま足を踏み入れた。

 まず見えたのは小物たちだった。お皿やキッチン用品、雑貨など。可愛らしいデザインのものが多く並び、どうしてもキラキラした目で見てしまう。

「成瀬さん成瀬さん! お皿可愛いですよ!」

「ああ、皿、ね……」

「成瀬さんお皿って持ってましたっけ?」

「百均で買った一枚だけ」

「一枚て……ちょっと買いませんか? いつもタッパーのまま食べてるし。ああ、洗うのがめんどくさくなるか。私は欲しいなあ」

 つい手を伸ばして色々見てしまう。一人暮らしじゃ皿なんてそんなに種類があってもしょうがないのだが、見るとテンションが上がるのが女というものだ。可愛い形、柄、使いやすそうな素材。つい目的も忘れて楽しんでいる。

「あ、これ可愛いなあ」

「へえ、確かにオシャレ」

 上品な花が描かれた洋皿を見つめる。大きさもいい感じだな、値段も手ごろだし買ってみようかな。そう考えていると、成瀬さんが言った。

「今日は普段のお礼として、俺が買うよ」

「え!? いやいや、いつもバイト代貰ってますから!」

「それだけじゃ感謝が伝えきれないね。これ買おうか、いいデザインだね。今買うと荷物になっちゃうから、帰りに忘れずに買って行こう」

「あ、ありがとうございます……」

 成瀬さんにプレゼントされてしまった。なんだか心臓がきゅうっと痛い、狭心症だろうか。

 家で使うものを一緒に見ているって、なんだか不思議な気持ちになる。自分のプライベートを相手に見せてしまっているような、そんな感覚だ。私は成瀬さんの家とかはもう見てしまってるけど、私の家に招待なんてしたことはないから、どうもむず痒い。

「あ、二階がテーブルとかあるって。佐伯さん行こうか」

「はい!」

 私たちはそのまま階段を上っていく。

 二階にたどり着くと多くのソファやローテーブルなどが並んでおり、かなり種類は豊富のようだった。お洒落なデザインに心が踊り、私は目を輝かせる。

「わわ、色々ある! どれもいい、テンション上がる!」

「……ははっ」

「あ、ごめんなさい、うるさくて」

「ううん、楽しそうでいいなって思って。佐伯さんって、仕事中はしゅっとして大人びてるけど、実はかなり表情豊かな人だよね」
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