完璧からはほど遠い
「仕事中とイメージが違うというセリフは成瀬さんにだけは言われたくありません」

「はは、その通りだ」

 二人でとりあえず近くのテーブルに近づき、眺める。私はソファを買う予定なんてないくせに、設置してあったソファに座ってみる。ああ、いいなあソファあるって。私の部屋にはないのだ。でも買うにしてもこんな大きいのはいらないなあ。

 私を真似して成瀬さんも座る。しかし、すぐに目がうっとりと細くなるのを見て慌てて立ち上がる。

「成瀬さん、駄目ですよ寝ちゃ!」

「あ、バレた? ソファに座ると睡眠スイッチが」

「座るのはやめましょう、テーブルテーブル!」

 私たちがそう騒いでいると、背後から声がした。落ち着いた男性の声だった。

「何かお探しですか?」

 振り返ると、五十代くらいのベテランそうな男性スタッフが立っていた。気づかぬ間に店員が近づいてきていたらしい。私たちは頷いて答えた。

「えっと、テーブルを見てて」

「ああ、新婚さんでいらっしゃいますか? 新居に?」

 突如そんなことを言われたため、私は固まってしまった。一瞬彼の言った言葉が理解できなかったくらいだ。

 新婚? 新婚?? ああそうか、男女が一緒に家具を見ていれば普通そう勘違いされても不思議ではない。いくら私と成瀬さんの顔面偏差値があまりに釣り合っていなくても、だ。

 店員は特に深く考えて発言したわけではないと分かっているのに、戸惑いが隠せなかった。胸が苦しいほどに痛い。

 けれどそんな私の隣りで、成瀬さんは笑いながらサラリと否定した。

「いえいえ、友人なんです。お互い一人暮らししていて、それぞれ欲しいものがありまして」
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