完璧からはほど遠い
「ああ、そうでしたか」

「サイズ的にはこれくらいのを探してるんですが、どういうのがありますか?」

「ふんふん、ああ、こちらですと……」

 一人意識してしまっている私をさしおいて二人は勝手に進んでいく。笑いながら店員と並び歩き出す成瀬さんの後ろ姿を軽く睨んだ。なぜ睨んだのかは分からない、ただ理由も分からないが酷く不愉快だったのだ。

 おかしい。成瀬さんは何も悪いことはしていないというのに。

 とぼとぼと後ろから後をついて行く。成瀬さんは店員から色々教えてもらい感心しながら話を聞いている。無言でそれを見ていると、ある拍子にくるりと私を振り返った。

「佐伯さんは、どっちがいいと思う?」

「え?」

「あっちのと、こっち。俺の部屋どっちが合うかな?」

 彼が指さしたのは、至ってシンプルなものだ。木目調のテーブルと、セラミック調デザインのもの。どちらもお洒落で、モダンな感じだ。

「え、私に聞くんですか?」

「うん。佐伯さんが選んで」

「え!? 私が選ぶんですか!?」

「このテーブルの上に置くご飯を作ってくれるのは佐伯さんだからね、佐伯さんに決めてもらわないと」

 わけのわからない理由で決断権を頂いた。少し離れたところで、あの店員さんがうんうんと頷いて、何やら生温い目で私たちを見ている。成瀬さんの発言を聞いて、何か勘違いしてないだろうか?

 困って眉を下げるも、成瀬さんは期待したようにキラキラした目で私を見ている。ううんと唸り悩んだ挙句、私は恐る恐る声を出してみた。

「どちらも部屋には合うと思いますが……こっちの木目調の方が、あったかい感じがしていいかな、と」

「オッケー決まり」

「決まっちゃった!? 本当にいいんですか?」

「うん、いいの」

 笑顔で店員に購入の意を伝える成瀬さん。なんだか私一人重大な判断をさせられ不公平だと思い、つい成瀬さんに言い寄った。

「じゃあ私の部屋のテーブルも成瀬さんが決めてください!」

「えっ」

「そうすれば公平です、えっと私の欲しいサイズは……」

「いや、でもさ。俺佐伯さんの家見たことないから、さすがにどれが合うかとか分かんないよ」

 困ったように首を傾げる成瀬さんの発言を聞き、確かに、と納得してしまった。
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